赤城嶺に

群馬県前橋市の公式な歌として、「前橋市の歌『赤城嶺に』」（まえばししのうた あかぎねに）が定められています。この歌は、作詞を和田利男氏、作曲を川崎祥悦氏が手掛けました。

その表題については、楽曲が持つ特異な形式から、資料や媒体によっては「前橋市の歌『赤城嶺に』」と「交声曲『赤城嶺に』」という二通りの表記が併存している点が特徴です。

制定の経緯と楽曲の特徴

前橋市は1892年（明治25年）に市制を施行して以来、長年にわたり市歌を持っていませんでした。しかし、1982年（昭和57年）に迎えた市制90周年と、同年の前橋市民文化会館落成を記念する事業の一環として、市歌の制定が計画されました。

その目的は、「広く前橋市民に親しまれ、愛唱される歌」と位置付けられ、市役所内に市歌作成委員会が設けられました。そして、同年11月1日付で正式に制定が告示されました。制定の告知後、11月3日に開催された文化会館の竣工記念式典において、この新しい市歌が初めて演奏されました。

作詞は公募形式ではなく、当時群馬大学教育学部の教授であった和田利男氏（1904年-1996年）に依頼されました。作曲を担当した川崎祥悦氏によって手掛けられたこの楽曲は、日本の自治体歌としては非常に珍しい「交声曲（カンタータ）」の形式をとっています。このため、楽曲全体をフルで演奏すると、およそ30分にも及ぶ非常に長大な作品となっています。

このような規模のため、実際の市の行事などで演奏されたり市民が斉唱したりする際には、この長大な楽曲の後半にあたる約3分の1の部分が用いられています。前橋市の公式な例規集に掲載されている歌詞や楽譜も、この短縮版となっています。

合併後の市歌の継承

平成期に行われた大規模な市町村合併において、前橋市は勢多郡に属していた大胡町、宮城村、粕川村、富士見村を編入し、市域を拡大しました。しかし、市歌に関しては「前橋市の制度に統一する」という方針のもと、「赤城嶺に」が引き続き前橋市の歌としてその地位を保っています。

編入された4町村のうち、粕川村では1964年（昭和39年）に村歌「粕川の歌」を制定していました。合併に際しては、この粕川村歌を「地域の歌」として今後も継承していく旨の申し合わせが行われています。

完全版演奏に向けた取り組み

「赤城嶺に」が交声曲という特殊な形態であることから、市の行事での演奏は短縮版に限定されていました。制定時に制作されたLPレコードのA面には完全版のオーケストラ譜が収録されていましたが、ピアノ譜以外に完全版の楽譜はほとんど存在せず、特に吹奏楽用の楽譜はLPレコードのB面に収録されていた短縮版のみでした。

この状況を踏まえ、前橋市では2017年（平成29年）に市制125周年を迎える記念事業として、吹奏楽編成および全曲合唱のための新しい編曲が作成されました。そして、同年12月9日には、35年前の市歌初演と同じ会場である昌賢学園まえばしホールにて、「前橋市の歌『赤城嶺に』発表演奏会」と題した公演が開催され、完全版の吹奏楽演奏と全曲合唱が披露されました。

制定時のLP盤

市歌が制定された1982年（昭和57年）には、レコード会社のフォンテックによってLPレコード（規格品番：FO-1946）が制作・発売されています。このLP盤には以下の内容が収録されていました。

A面
前橋市の歌 交声曲 赤城嶺に（完全版、オーケストラ演奏）
B面
前橋市の歌 赤城嶺に（ピアノ演奏による短縮版）
トランペット鼓隊のための前橋市の歌 赤城嶺に（短縮版）
金管バンドのための前橋市の歌 赤城嶺に（短縮版）
同声二部合唱と器楽合奏のための前橋市の歌 赤城嶺に（短縮版）
混声三部合唱と吹奏楽のための前橋市の歌 赤城嶺に（短縮版）
吹奏楽による行進曲 前橋市の歌 赤城嶺に（短縮版）

参考文献

前橋事典編集委員会 編『前橋事典』（国書刊行会、1984年）
中山裕一郎 監修『全国 都道府県の歌・市の歌』（東京堂出版、2012年）

関連項目

群馬県の市町村歌一覧
* 赤城山

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