赤毛

赤毛（赤髪）とは：遺伝、分布、文化、そして偏見

赤毛（あかげ、あかがみ）は、英語では"red hair"や"ginger hair"と呼ばれ、世界人口のわずか1〜2％に見られる希少な髪色です。特に北ヨーロッパや北西ヨーロッパの祖先を持つ人々に多く見られ、その割合は2〜6％に達します。

遺伝的特徴

赤毛の主な原因は、16番染色体にあるMC1R遺伝子の変異です。この遺伝子は、メラノコルチン1受容体というタンパク質を生成する役割を担っています。変異したMC1R遺伝子を持つ人は、メラニンの生成バランスが崩れ、赤みを帯びた色素であるフェオメラニンが多く生成される一方、黒褐色の色素であるユーメラニンが少なくなります。

この遺伝子変異は劣性遺伝であるため、両親から受け継いだMC1R遺伝子が両方とも変異している場合にのみ、赤毛として発現します。両親が赤毛でなくても、保因者であれば子供が赤毛になる可能性があります。

赤毛の人の特徴

赤毛の人は、一般的に以下のような特徴を持つとされています。

髪色: 濃いバーガンディ、明るい銅色、赤褐色、バーントオレンジ、ストロベリーブロンドなど、多様な色合い
肌の色: 白く、紫外線に弱い
目の色: 薄い色（青、緑、ヘーゼルなど）
そばかす: できやすい

これらの特徴は、ユーメラニンの少なさとフェオメラニンの多さに起因しています。

地理的分布

赤毛は、ヨーロッパの北部と西部に多く見られます。特に、ブリテン諸島（アイルランド、スコットランド、ウェールズ、イングランド）に集中しており、ケルト民族との関連が指摘されています。

アイルランド: 赤毛の人の割合が世界で最も高く、約10％を占めます。
スコットランド: 人口の約6％が赤毛であり、エディンバラは「世界の赤毛の首都」として知られています。

東ヨーロッパや南ヨーロッパでも、赤毛の人が見られます。イタリアでは全人口の0.57％、サルデーニャでは0.24％が赤毛です。ロシアのヴォルガ地方に住むウドムルト人は、かつて「世界で最も赤毛が多い民族」と考えられていました。

アシュケナージ系ユダヤ人の間でも赤毛が見られ、歴史的にはユダヤ人の特徴として認識されることもありました。スペイン異端審問では、赤毛の人はユダヤ人と見なされることがありました。

北アフリカや中東の一部地域でも、赤毛の人が見られます。モロッコのベルベル人や、アラブ人、イラン人、テュルク系民族などにも赤毛の人が存在します。

文化的な見方

赤毛に対する文化的反応は、時代や地域によって大きく異なります。嘲笑や偏見の対象となることもあれば、美しさや特別な才能の象徴として賞賛されることもあります。

赤毛に対する偏見

歴史的には、赤毛は獣性や道徳的退廃の象徴と見なされることがありました。中世ヨーロッパでは、赤毛の人は魔女や吸血鬼の兆候とされ、迫害の対象となることもありました。

現代でも、赤毛に対する偏見は根強く残っています。英語圏では、赤毛の人を指す言葉として「ginger」という言葉が使われますが、これは侮蔑的な意味合いを含むことがあります。赤毛に対する差別は「gingerism」と呼ばれ、人種差別と比較されることもあります。

赤毛への肯定的な見方

一方で、赤毛は美しさや個性的な魅力の象徴として賞賛されることもあります。イングランドのエリザベス1世が赤毛であったことから、エリザベス朝時代には赤毛の女性が流行しました。

現代でも、ニコール・キッドマンやエマ・ストーンなど、多くの有名人が赤毛染めをすることで、赤毛の魅力が再評価されています。また、サンドロ・ボッティチェリの『ヴィーナスの誕生』など、多くの芸術作品で赤毛の女性が描かれています。

医学的な意味合い

MC1R遺伝子の変異は、赤毛だけでなく、皮膚がんのリスクや痛みへの感受性など、健康にも影響を与える可能性があります。

皮膚がん: 赤毛の人は、ユーメラニンの量が少ないため、紫外線に対する防御力が低く、皮膚がんのリスクが高いとされています。
痛みへの感受性: 赤毛の人は、他の髪色の人と比べて痛みに対する感受性が異なるという研究結果があります。ある研究では、赤毛の人は熱痛に敏感であることが示されています。
* 麻酔: 赤毛の人は、麻酔薬が効きにくいという研究結果もあります。

これらの医学的な意味合いについては、さらなる研究が必要です。

まとめ

赤毛は、遺伝的な特徴だけでなく、文化、歴史、医学など、様々な側面から興味深い現象です。赤毛に対する偏見をなくし、その美しさや個性を尊重する社会が望まれます。

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