赤線協定

赤線協定について

赤線協定（あかせんきょうてい）とは、1928年7月31日にトルコ石油会社（後のイラク石油会社）の出資者間で結ばれた合意です。この協定は、出資者が旧オスマン帝国の領域において独自に石油権益を求めることを禁じる「自粛条項」を含んでおり、その目的は企業体制を整えることにありました。このようにして、赤線協定によって石油の独占的管理が生まれ、広範囲にわたる影響力を持つカルテル体制が形成されました。この制度は、1960年に成立した石油輸出国機構（OPEC）への道を開くと同時に、30年以上の時間をかけて中東地域の石油市場に大きな影響を及ぼしました。

赤線協定の背景と経緯

赤線協定は、当時の中東における石油権益を巡る出資者の会議での出来事から始まりました。報告によると、アルメニア人実業家のカルースト・グルベンキアンは、中東の地図に赤い線を引いて「自粛条項」の効果が及ぶ範囲を示しました。グルベンキアンは、この範囲が1914年のオスマン帝国の領域に基づいていると主張し、他の出資者たちもこれに対して異を唱えることはありませんでした。この背景には、当事者間であらかじめ領域設定に関する合意があった可能性があるためです。

「赤線」の範囲には、アラビア半島やトルコが含まれましたが、クウェートは除外されました。この除外は、イギリスによるクウェートの利権保持を意図していたと考えられています。後に、スタンダード・オイル・オブ・ニュージャージーのウォルター・C・ティーグルは、この協定を「ひどく悪い一手」と評価しました。しかし、赤線協定は、TPCを引き継いだイラク石油（IPC）の事業域を明確化し、長期間にわたる影響を持つこととなりました。

著述家スティーヴン・ヘムズリー・ロングリッグは、この赤線協定について「間違いだらけのカルテルの悲しむべき一例」としつつも、国際協力と公正な資源分配の観点からも啓発的な事例であると述べています。特に、アラビアン・アメリカン・オイル（アラムコ）やバーレーン石油会社（BAPCO）が支配的な地位を占めたサウジアラビアやバーレーンを除けば、IPCは赤線内の石油開発を独占していました。

赤線協定の影響とその後

アメリカのスタンダード・オイル・オブ・ニュージャージーとソコニー・バキューム社は、赤線協定によってIPCに財政的に依存していました。これにより、サウジアラビアの石油開発に関してアラムコから提携提案がなされた際、他の出資者は協定に従って提携を拒否したのです。しかし、第二次世界大戦が勃発することで、米国資本の企業は赤線協定が無効だと主張しました。それでも、グルベンキアンとの法的交渉は長期化し、最終的には法廷外で和解が成立しました。結果、米国の企業はアラムコに資本参加し、それ以降赤線協定は事実上の無効となりましたが、IPCはその事業を継続しました。

このように、赤線協定は中東の石油業界に大きな変革をもたらし、その影響は現在でも感じられます。石油の権益を巡る力関係や国際的な協力・競争のルールを形成し、一国の経済や戦略に深く根ざす重要な歴史的契機となったのです。

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