超低密度リポタンパク質

超低密度リポタンパク質（VLDL）

概要

超低密度リポタンパク質（Very-low-density lipoprotein、略称VLDL）は、肝臓によって生成される特殊な脂質複合体粒子です。これらの粒子は、体内で合成されたトリグリセリド（中性脂肪）やコレステロールといった脂質成分を血液の流れに乗せて、全身の様々な組織へと運搬する主要な担い手の一つです。脂質は本来、水に溶けにくいため、水が主成分である血液中をそのままでは効率的に移動できません。そこで、脂質をタンパク質（アポリポタンパク質）と結合させることで、血中で安定して存在できるリポタンパク質という構造が形成されます。VLDLは、カイロミクロン、中間密度リポタンパク質、低密度リポタンパク質、高密度リポタンパク質と共に、体内における主要なリポタンパク質ファミリーを構成しており、脂質輸送システムの中で重要な役割を果たしています。

VLDL粒子は直径がおよそ30から80ナノメートルと非常に微細で、肝臓内でトリグリセリド、コレステロール、および特定のアポリポタンパク質が組み合わされて生成されます。VLDLが主に体内で作られた脂質（内因性脂質）を運ぶのに対し、カイロミクロンは食事から摂取された脂質（外因性脂質）の輸送を主な役割としています。近年、2010年代初頭を中心に、VLDLの脂質組成やタンパク質組成について、詳細な分析が進み、その特性がより深く理解されるようになりました。

機能

VLDLの中心的な機能は、肝臓から送り出される内因性の脂質成分、すなわちトリグリセリド、リン脂質、コレステロール、およびコレステリルエステルを、必要とする末梢組織へ届けることです。これらの脂質は、細胞がエネルギーを生み出すための燃料となったり、細胞を構成する膜の材料となったり、あるいはステロイドホルモンや胆汁酸などの重要な生理活性物質を合成するための原料として利用されます。

さらに、VLDLは脂質輸送の役割を超えて、細胞間の情報伝達にも関与することが示唆されています。例えば、インディアン・ヘッジホッグのような、水に溶けにくい性質を持つ形態形成因子（体の構造形成に関わる信号分子）を、血液を介して比較的長い距離を輸送する手助けをしています。これにより、遠隔にある細胞や組織に対して正確な信号を届けることが可能になります。

体内での代謝経路

肝臓で合成され、血流に放出されたばかりのVLDLは、「新生VLDL」と呼ばれます。この新生VLDLは、アポリポタンパク質B100（apoB100）、アポリポタンパク質C1（apoC1）、アポリポタンパク質E（apoE）といったアポリポタンパク質のほか、大量のトリグリセリド、コレステロール、コレステリルエステルを含んでいます。

血中を循環する間に、新生VLDLは他のリポタンパク質、特に高密度リポタンパク質（HDL）と相互作用します。HDLからアポリポタンパク質C-II（apoC-II）と追加のapoEを受け取ることで、「成熟VLDL」へと変化し、脂質代謝の次の段階に進む準備が整います。

成熟VLDLが、エネルギー源として脂質を多く利用する組織（例：脂肪組織、心臓、骨格筋）の毛細血管床を通過する際、血管壁に存在するリポタンパク質リパーゼ（LPL）という酵素と接触します。LPLはVLDL粒子内のトリグリセリドを加水分解し、生成された脂肪酸を組織が取り込めるようにします。この過程で、VLDLはトリグリセリドを失い、その大きさと組成が変化し始めます。

LPLによるトリグリセリドの減少が進むと同時に、VLDLはHDLとの間でさらなる脂質のやり取りを行います。この段階で、VLDLはapoC-IIをHDLに返却することが多いですが、apoEは保持します。加えて、コレステリルエステル転送タンパク質（CETP）の働きにより、VLDLはHDLからコレステリルエステルを受け取り、代わりにリン脂質や残りのトリグリセリドの一部をHDLに譲渡します。

LPLやCETPによる酵素作用の結果、VLDLからさらにトリグリセリドが取り除かれ、コレステロールの相対的な割合が増加すると、粒子は中間密度リポタンパク質（Intermediate-density lipoprotein, 略称IDL）へと変化します。IDLは、VLDLと後述するLDLの中間的な性質を持ちます。

生成されたIDL粒子の約半分は、apoB100とapoEを認識する肝臓の細胞表面受容体によって効率的に捕捉され、肝臓の細胞内に取り込まれて処理されます。しかし、残りの約半分のIDL粒子は、血流中に留まり、さらに代謝を受けます。これらのIDLは、トリグリセリドをさらに失い、特にapoEを失う傾向があります。最終的に、粒子内のコレステロールの割合がトリグリセリドよりも多くなり、主要なアポリポタンパク質がapoB100のみとなった粒子は、低密度リポタンパク質（Low-density lipoprotein, 略称LDL）へと変換されます。

LDLは、コレステロールを肝臓から全身の末梢組織へと運ぶ主要なリポタンパク質です。組織細胞は、表面にあるLDL受容体を介してLDL粒子を細胞内に取り込みます。取り込まれたLDLに含まれるコレステロールは、細胞膜の構築、ステロイドホルモンや胆汁酸などの生体分子合成の材料として利用されるか、あるいは必要に応じて細胞内に貯蔵されます。このように、VLDLは一連の代謝過程を経て、IDLからLDLへと連続的に変化することで、体内の脂質、特に内因性のコレステロールを効率的に全身に供給する重要な役割を果たしているのです。

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