越後流

越後流（謙信流）兵法

越後流、あるいは謙信流（えちごりゅう、けんしんりゅう）とは、戦国時代の傑物として知られる上杉謙信にその源流を持つ兵法および軍学の流派を指します。この流派は、越後流軍学や謙信流軍学などとも称されています。

成立とその背景

この兵法流派の体系を確立したのは、沢崎景実という人物です。彼は、上杉謙信の麾下に仕えた宇佐美良勝や加治景英といった名だたる兵法家たちの理論を基盤として、独自の兵法体系を編み出しました。

沢崎景実の学びの道のりは、山形藩時代に始まります。ここで彼は、加治景英の子孫にあたる加治景明に師事し、『景英捨書』としてまとめられていた兵法学、具体的には「要門軍礼」や「武者帯」といった内容を深く学びました。その後、沢崎は米沢へと移り住み、上杉家に伝わる伝統的な兵法（上杉家法）の研究に没頭しました。さらなる研鑽を積んだ後、江戸へと進出。ここでは同門の高松正朝の支援を受けながら、本郷の地で越後流兵法の講義を行い、その普及に努めました。

兵法思想の特質

越後流の兵法思想の核心は、『武門要鑑抄』という書物に集約されています。この思想は、「磨心立極」「等格部提」「勝負必究」「現行成就」という四つの部門に分けられています。

彼らの思想において、最も重要視される「要門の達徳」とされたのは、「不敗不死」、すなわち絶対に敗れず、また不必要な死を招かないことでした。そして、「要門の至徳」としては、日々の厳しい鍛錬に励みながらも、眼前の勝負に固執したり、執着したりしないという境地が掲げられました。

越後流の最大の特徴の一つは、衆生済度（一切の人々を救済すること）や慈悲といった仏教的な思想が、武法体得という具体的な修行の中に積極的に取り入れられている点にあります。これは、単なる戦術や戦略に留まらず、武士としての精神性や生き方をも深く追求しようとする、この流派独自の理念を示すものです。

歴史の中での展開

江戸時代に入ると、兵学の分野では武田信玄の兵法に由来する甲州流軍学が、幕府によって公式に認められる軍学として広く用いられました。これに対し、越後流は幕府公認という形は取らず、主に紀州藩において藩学として採用され、その伝統が受け継がれました。

越後流の教本としては、『北越軍談』などが広く読まれ、多くの武士たちがこの流派の思想や技術を学ぶ手引きとしました。このように、越後流は甲州流とは異なる形で、日本の兵法史において一定の影響力を持ったのです。

主な継承者・研究者

越後流兵学は、多くの学者や武士によって研究・継承されてきました。その代表的な人物としては、佐久間正春、佐久間景忠、長谷川景重、依田英信、武藤永重、高松正朝、高山健貞、窪田清音、山下幸内、山脇治右衛門などが挙げられます。

これらの学者たちの活動によって、越後流兵法の思想と技は時代を超えて伝えられ、日本の武道文化の一端を担いました。

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