趙柔 (元)

趙柔（ちょう じゅう）

趙柔は、金朝末期からモンゴル帝国初期にかけて活躍した人物です。易州淶水県（現在の河北省淶水県）の出身で、父は金朝に仕える県令でした。趙柔は胆力と知略を兼ね備え、騎射を得意とし、人々に施しを好む人物だったと伝えられています。

金朝末期の動乱と趙柔の台頭

金朝末期、世は乱れていました。趙柔は戦乱を避けるため、西山に逃れて柵を築き、故郷を守ります。その頃、劉伯元、蔡友資、李純といった有力者たちが、数千の部下を率いて趙柔のもとに集まりました。彼らは趙柔が信義を重んじる人物であると聞き、その人柄に惹かれたのです。趙柔は彼らを率いる長となり、命令を明確にし、約束を厳守し、賞罰を明確にしたため、配下の者たちは皆、心服したといいます。

モンゴル帝国への帰順

1211年、チンギス・カン率いるモンゴル帝国が金朝への侵攻を開始します。金朝は大きな打撃を受け、1213年には紫荊関が陥落し、モンゴル軍は河北各地を蹂躙しました。『元史』趙柔伝では、1213年の紫荊関陥落時に趙柔がモンゴル軍に降伏したとされています。しかし、『元史』太祖本紀には趙柔の投降に関する記述がなく、近隣の張柔らがモンゴルに投降したのは1218年であることから、この記述は疑わしいとされています。

紫荊関は1213年にモンゴル軍に攻略された後、一時的に金朝によって奪還されましたが、1218年に再びモンゴル軍によって奪い返されました。したがって、趙柔が投降したのは1213年の第一次紫荊関攻略後ではなく、1218年の第二次紫荊関攻略後と考えるのが自然であり、近隣の張柔らの動向とも整合性がとれます。また、『滋溪文稿』によると、モンゴル投降以前の趙柔は金朝より易州総押都の地位を授けられていたとされますが、これも1213年から1218年の間に授けられたと考えるのが妥当でしょう。

1218年、趙柔がモンゴルに降伏すると、行省のジャバル・ホージャの奏聞を経て、涿州・易州の長官に任じられ、金符を与えられました。チンギス・カンの金朝侵攻後、華北一帯では盗賊が横行していましたが、趙柔は単騎で多くの城柵に入り、説得によって降伏させたため、その功績を賞して1226年に龍虎衛上将軍・真定涿等路兵馬都元帥に任じられ、金虎符を与えられました。

モンゴル帝国での活躍と晩年

1230年、オゴデイ・カアンの命により管諸処打捕総管を兼ねるようになり、1236年には更に金紫光禄大夫を加えられましたが、間もなく亡くなりました。至順元年（1330年）、天水郡公に追封され、荘靖と諡されました。曾孫の趙世安は栄禄大夫・江西行省の左丞となっています。

子孫

趙柔には6人の息子がいました。長男の趙守贇は金符を帯び、僉山北遼東道提刑按察司事、総管大都・保定打捕鷹坊などに任じられました。次男の趙守忠は信翊校尉・広宗県尹となり、人々から父母のように敬われたといいます。三男の趙守仁は早世し、四男の趙守純は官百夫長、五男の趙守政は権打捕鷹坊に、それぞれ任じられました。末子の趙治一は老子を学び道士となりましたが、朝廷には仕えませんでした。

趙柔の孫世代では、趙守贇に総管・管打捕鷹坊となった趙謙と、翰林直学士となった趙晟という二人の息子がいました。趙守信にも二子あり、長男の趙貫は早世しましたが、次男の趙簡は洺水県尹となりました。趙貫の子趙世安は、中丞君となっています。趙守純には三子あり、長男の趙鴻和は百夫長となり、次男のチェリクは提領打捕鷹坊となりましたが、三男は早世しました。趙守政には二子あり、長男の趙允は昭信校尉・保定路総管府判官となり、次男の趙密は総管大都等処打捕鷹坊となりました。

趙柔の子孫の中では孫の趙晟が最も立身出世し、『新元史』でも立伝されています。



参考文献

池内功「モンゴルの金国経略と漢人世候の成立-１-」『創立三十周年記念論文集』四国学院大学編、1980年
『元史』巻152列伝39趙柔伝
『新元史』巻143列伝40趙柔伝
『滋溪文稿』巻11碑誌5皇元贈集賢直学士趙惠肅侯神道碑銘
* 『石田先生文集』巻13勅賜御史中丞趙公先徳碑銘

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