足利春王丸

足利 春王丸（あしかが しゅんおうまる / はるおうまる）

室町時代中期の人物で、鎌倉公方、のちに関東公方となった足利持氏の嫡子の一人とされます。生母については、『古河公方系図』によれば簗田河内守（簗田満助とされる人物）の娘とされています。持氏の子息の中で、史料に生母が明記されているのは春王丸のみであるとされますが、弟とされる安王丸や成氏と母が同じであったかは明確ではありません。また、研究者の中には、簗田氏の娘が生んだのは安王丸であり、『古河公方系図』の記述は誤りであるとする説を唱える向きもあります。

春王丸の短い生涯は、父である足利持氏と室町幕府将軍足利義教の対立に深く関わっています。父持氏が、永享11年（1439年）に義教に反抗した結果、永享の乱として知られる戦いに敗れ、自害に追い込まれると、春王丸は弟の安王丸と共に、下野国（現在の栃木県）の日光山に身を隠しました。しかし、まもなく密かに結城氏朝によって庇護されることとなります。

当時の幕府は、持氏の滅亡後、自らの子を新たな関東公方として下向させようと画策していました。これに対し、結城氏朝は関東の伝統的な秩序を守る立場から、持氏の遺児である春王丸を擁立し、自らの居城である結城城（現在の茨城県結城市）に籠城しました。これが嘉吉元年（1441年）に勃発した結城合戦です。

結城合戦は、上杉持房を総大将とする大規模な幕府軍によって結城城が包囲される形で展開されました。約1年にも及ぶ激しい攻防の末、嘉吉元年4月、結城城はついに落城します。籠城していた春王丸と安王丸は、捕虜となり、幕府の命令により京都へ護送されることになりました。

しかし、京都への護送途中、美濃国（現在の岐阜県）の垂井宿にある金蓮寺において、室町幕府将軍足利義教の命令によって、弟の安王丸と共に殺害されてしまいます。この時、春王丸はわずか12歳でした。

結城城には、春王丸、安王丸兄弟と共に、もう一人の持氏の子息である成氏も籠城しており、兄弟同様に殺害される寸前であったが、その直前の嘉吉元年6月に将軍足利義教が暗殺される嘉吉の乱が発生したことで難を逃れた、とする説も存在します。確かに、『看聞日記』の嘉吉元年5月19日条には、持氏の息子3名が捕らえられたと記されています。しかし、『喜連川判鑑』や『古河公方系図』といった他の史料では、成氏は結城合戦終結後、信濃国（現在の長野県）へ落ち延び、大井氏に匿われていたとされており、下野国で潜伏・捕縛された春王丸や安王丸とは別行動であったと記されています。このため、『看聞日記』に記された3人目の息子は、成氏ではない、持氏の別の息子であったと推測されています。

最期に際し、春王丸は辞世の歌を残したと伝えられています。

「夏草や 青野が原に 咲くはなの 身の行衛こそ 聞かまほしけれ」（春王丸）

弟の安王丸もまた、辞世の歌を残しています。

「身の行衛 定めなければ 旅の空 命も今日に 限ると思へば」（安王丸）

幼くして時代の波に翻弄され、非業の最期を遂げた春王丸と安王丸は、結城合戦における悲劇の象徴として記憶されています。岐阜県垂井町には、兄弟の墓とされるものが現存しています。

もう一度検索