軍医総監

大日本帝国陸軍・海軍の軍医総監

大日本帝国陸軍と海軍において、軍医の最高階級は「軍医総監」でした。これは、軍医官におけるトップの地位を示す称号です。のちに「軍医中将」と改称されましたが、その歴史と役割は、日本の軍事体制を考える上で重要な要素となっています。本稿では、階級としての軍医総監、特に軍医中将への移行過程と、アメリカ合衆国におけるSurgeon Generalとの比較を通して、その詳細を解説します。

階級としての軍医総監

帝国陸軍と海軍において、軍医総監は創設当初から最高階級として存在していました。しかし、その扱いは時代とともに変化しました。初期の軍医総監は少将相当官でしたが、明治30年代には、中将相当官の軍医総監と少将相当官の軍医監という二つの階級に分けられました。この分化は、軍医組織の拡大と専門性の高まりを反映しています。

そして、1937年（昭和12年）、陸軍では、軍医総監は軍医中将に改称されました。海軍でも、1921年（大正10年）に同様の改称が行われています。この改称は、軍医の地位向上と、他の将官との待遇の統一を目的としていたと考えられます。

陸海軍を問わず、最先任の軍医総監（または軍医中将）は、陸軍省（または海軍省）の医務局長に補されるのが一般的でした。これは、軍医組織の最高責任者として、軍全体の衛生管理を統括する役割を担っていたことを示しています。

陸軍軍医総監

陸軍では、当初軍医総監は少将相当官とされていましたが、1897年（明治30年）に、従来の軍医総監を軍医監（少将相当官）とし、新たに中将相当官の軍医総監が設けられました。これは、軍医組織の拡大と専門性の向上を背景に、最高位の軍医にふさわしい地位を与えるための措置だったと考えられます。

当時の陸軍では、将校の呼称は兵科のみに適用され、他の部門（経理部、衛生部、獣医部など）は「将校相当官」と呼ばれていました。軍医部も例外ではなく、軍医総監・軍医監は将官相当官、一等軍医正・二等軍医正・三等軍医正が上長官（佐官）、一等軍医・二等軍医・三等軍医が士官（尉官）という階級体系でした。

しかし、1937年（昭和12年）の改定によって、「将校相当官」は「各部将校」に改められ、階級名も将校と同じ形式に統一されました。この改定によって、陸軍軍医総監は陸軍軍医中将に改称されたのです。

海軍軍医総監

海軍においても、軍医総監は最高階級として重要な役割を担っていました。1919年（大正8年）、海軍軍医総監は海軍軍医中将に改称されました。陸軍と同様、軍医の地位向上と、他の将官との待遇の統一が目的だったと考えられます。

役職としての軍医総監

アメリカ合衆国軍では、Surgeon General という役職が存在し、「軍医総監」と訳されています。これは、陸軍、海軍、空軍それぞれに設置されており、各軍における医療・衛生業務の最高責任者を指します。

日本の自衛隊にも、アメリカ軍のSurgeon General に相当する職務があります。陸上自衛隊には衛生部長、海上自衛隊と航空自衛隊には首席衛生官が置かれ、それぞれが部隊の衛生管理を統括しています。

ドイツ連邦軍の救護業務軍にも、Inspekteur des Sanitätsdienstes（救護業務軍総監）という最高位の役職があり、軍医中将が任命されます。この役職は、ドイツ軍の医療・衛生業務を統括する責任者です。

医務総監

アメリカ合衆国の保健福祉省公衆衛生局の実務上の長であるSurgeon General of the United Statesは、「医務総監」と訳されます。アメリカ公衆衛生局士官部隊の中将の階級を持ち、アメリカの公衆衛生行政の中心的な役割を担っています。2017年に日本の厚生労働省に新設された医務技監は、この役職を参考に設置されたものです。

参考文献

* 秦郁彦 編著『日本陸海軍総合事典』（第2）東京大学出版会、2005年。

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