軍国歌謡

軍国歌謡の概要

軍国歌謡（ぐんこくかよう）とは、戦時中にレコード会社が戦意高揚を目的に制作した歌謡曲のことを指します。これらの曲は主に民間の作曲家によって制作され、軍歌などの公式な作品とは区別されます。かつては「流行歌」として販売されていましたが、戦争の進展に伴い、より厳格な文化統制がなされると、「歌謡曲」と改められました。このような経緯の中で、軍国歌謡の名称は後から付けられたものでした。

多くの軍国歌謡は、明治時代の日清・日露戦争をもとにした行進曲のリズムを持ちつつも、従来の堅苦しい長音階ではなく、一般民衆に定着しつつあった五音短音階と都節音階を組み合わせた曲調を特徴としています。これにより、歌謡の柔らかさを巧妙に隠していたのです。

歴史的背景と作品群

日中戦争下

軍国歌謡は大正末期から次第に広まりました。1929年には『満洲前衛の唄』が発表され、1931年に中村大尉の殺害事件を受けて時事小唄『噫中村大尉』が大ヒットしました。この事変が証明するように、戦時中の士気を高めるための曲が多く製作され、これにより国民に強い感情を喚起しました。

1932年には多くのレコード会社が、「肉弾三勇士」を称える歌の募集を行い、その中から様々な作品が生まれました。エロ・グロ・ナンセンスといった流行が薄れ、代わりに満洲をテーマにした曲が増えていく中、陸軍のマーチ『討匪行』は藤原義江の歌で大ヒットとなりました。

さらに1933年には東京での人口増を祝った行事もあり、盆踊りの曲として『東京音頭』『さくら音頭』などさまざまな歌が用いられました。この頃から内務省による検閲も強化され、多くの歌が改変や禁止を受けることとなりました。

太平洋戦争下

1941年の太平洋戦争開戦後、NHKは「ニュース歌謡」を放送し、戦意を高める曲として『宣戦布告』や『皇軍の戦果輝く』などが流されました。内閣情報局は敵性音楽の排除や国民皆唄運動を推進し、愛国心を喚起することに努めました。この運動の中で『海ゆかば』や『明日はお立ちか』といった曲が特に人気を博しました。

戦争の終息が近づくにつれ、特に南方から帰還する兵士の心情を描いた『ラバウル小唄』が広まり、地域に応じた替え歌としても楽しまれました。

まとめ

このように、軍国歌謡は商業的な側面と戦時の国民意識の強化という二つの要素が密接に結びついていたことが特徴的です。これらの歌が持つ力は、国家のために戦うことを美化し、当時の社会情勢に大きな影響を与えました。戦後、これらの作品は一部が忘れさられましたが、その歴史的な意義は今もなお多くの人々に影響を与えています。

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