軍役代納金

軍役代納金（Scutage）とは

軍役代納金（Scutage）は、中世イングランドにおいて、封建制度下での軍役義務を金銭で代替する制度として知られています。この制度は、ノルマン朝時代から存在が確認されていますが、プランタジネット朝のヘンリー2世の時代（1159年）に徴収が本格化しました。当時は、主君と家臣との間に主従関係があり、主君は家臣に対して軍役を求めることができました。しかし、様々な事情から軍役に応じることができない家臣は、その代わりに金銭を納めることで義務を果たすことができました。これが軍役代納金です。

軍役代納金導入の背景

ヘンリー2世が軍役代納金を本格的に徴収した背景には、当時の社会情勢と軍事的な必要性が深く関わっています。当時、イングランドでは度重なる戦争が繰り返されており、君主は常に軍事力の確保に苦慮していました。家臣からの軍役だけでは十分な戦力を維持することが難しく、軍事力の強化が急務でした。そこで、集めた軍役代納金を元手に傭兵を雇い、軍事力を補充するようになりました。この制度は、従来の人的な奉仕義務を金銭で代替することを可能にし、経済的な側面からも社会の変化を促しました。

軍役代納金と諸侯の反発

プランタジネット朝のジョン王の時代になると、軍役代納金は新たな局面を迎えます。ジョン王は、度重なる軍事的な失敗によって深刻な財政難に陥っていました。そのため、戦争を継続するために、軍役代納金を事実上の租税として頻繁に諸侯に要求しました。しかし、この行為は諸侯たちの反発を招き、1214年には北部の諸侯たちが軍役代納金の支払いを拒否する事態に発展しました。この出来事は、ジョン王と諸侯の間の対立を深め、翌年の大憲章（マグナ・カルタ）制定へと繋がる重要な要因の一つとなりました。

軍役代納金の意義

軍役代納金は、中世イングランドの社会や経済、政治に大きな影響を与えました。軍役という人的な義務を金銭で代替可能にしたことは、社会構造の変化を促し、貨幣経済の発展にも寄与しました。また、王権と諸侯の関係において、財政的な側面から対立の火種となり、政治的な変革を促す一因にもなりました。軍役代納金は、単なる税制の一環としてだけでなく、中世イングランドの歴史を理解する上で重要な要素であると言えるでしょう。

関連事項

* 封建制

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