軍役

軍役（ぐんやく、ぐんえき）とは

軍役とは、戦時において武士が主君に課せられる軍事力や兵糧などのことです。中世から江戸時代にかけて、その意味合いや負担方法は大きく変化しました。ここでは、軍役の歴史的変遷と、時代ごとの特徴を解説します。

中世の軍役

中世における軍役は、広義には民衆に課せられる兵役を含む夫役の一部でしたが、狭義には封建制度における「御恩と奉公」の関係において、知行地の安堵と引き換えに主君に軍事的奉公を行うことを指しました。

当時の土地支配は複雑で、一つの土地に複数の権利が重層的に存在していました。武士は荘園を侵食し、自らの土地支配を保証してくれる有力な武士に、年貢の代わりに軍役を負担することで支配を確立していきました。平安時代には、開発領主は荘園領主への寄進や猟官活動を通じて支配を確立する一方、国衙からは軍役を課せられ、在庁官人として出仕しました。やがて、源氏や平家といった上級武家に土地の保証を委ねるようになり、下級・中級武士は主君から恩給された土地の見返りに、軍事的奉仕を行うようになりました。

鎌倉時代の御家人に課せられた軍役は、大番役や追捕などが主で、戦時には「いざ鎌倉」とばかりに馳せ参じました。ただし、これらの軍役は所領の大きさや収穫量に基づくものではなく、動員兵力は各御家人の裁量に委ねられていました。元寇では、過重な軍役に対して所領の加増が少なかったことが、鎌倉幕府滅亡の遠因になったと考えられています。

戦乱期の軍役

南北朝時代になると、中小武士団は足利氏や守護大名、南北朝方の有力武家に所領の安堵を求めました。幕府は奉公衆を編成し在京奉公を課す一方、守護大名は国内の在地領主に対する支配を強め、所領に応じた軍役を課すようになりました。戦術が集団戦闘へと変化するにつれて、軍役は所領や収穫量を基準としたものになっていきました。

軍役は、半農半士の土豪・地侍にも課せられました。彼らは年貢や夫役の一部を免除される代わりに、戦時には軍役を担いました。太閤検地の実施で兵農分離が進められるまで、各大名家の戦力の一部を担っていました。大名家における家臣への軍役は、貫高基準から石高基準へと移行していきました。大名から給人へ課せられる軍役は、兵の数や装備などが具体的に指示されましたが、軍役は俸給や兵粮米、臨時徴税と関係するため、小荷駄隊や下人などの人夫を含めた総人数で規定されました。

安土桃山時代には、豊臣秀吉が陣立書で動員数を規定するようになり、軍役の負担を軽減するために出征目的地との距離に応じて本役、半役、三分の一役と分けていました。軍役はあくまで徴用人数であり、すべてが兵士として従事するわけではなく、一部は陣夫や水夫などの非戦闘員として従事しました。これらの非戦闘員の割合は状況や大名家によって異なっていました。

江戸初期の軍役

鎌倉時代、室町時代には一定の基準がなかった軍役ですが、江戸幕府はこれを一定させました。1615年（元和元年）の大坂の陣において、徳川秀忠は軍令を発し、諸軍の部署を定めるとともに軍役を定めました。石高に応じて、鉄砲、弓、鑓、騎馬、旗などの割り当てが定められました。

このように、軍役は時代とともに変化し、武士の負担や社会構造に大きな影響を与えました。

もう一度検索