軍慰安所従業婦等募集に関する件

軍慰安所従業婦等募集に関する件

概要

1938年3月4日、陸軍省から発信された「軍慰安所従業婦等募集に関する件」という通達文書は、日本軍の慰安所と慰安婦に関わる公式な資料の一つとされている。この文書は、北支・中支の軍司令官に向けて発せられ、当時の日本政府の慰安婦問題における立場を如実に示している。1992年に朝日新聞がこの文書の存在を報じたことにより、慰安婦問題が広く知られることになり、多くの研究者によって引用・考察されることとなった。

通達の歴史的背景

この通達文書は、日本が1937年に全面的な対中戦争に突入し、中国大陸における日本軍の駐屯人数が増加する中で作成された。日本国内における慰安婦募集は、公娼制度に基づくものであったが、違法な斡旋業者が存在しており、これが問題視されていた。この通達は、そうした業者による募集行為を取り締まり、軍の信頼を守るべく発せられたものであった。

通達の内容とその影響

通達の中で日本政府は、慰安婦の募集に際して、厳しい基準を設け、身元証明書を発行すること、警察への届け出を義務付けることを求めていた。また、業者に対しては、軍との連携を密にし、適切な募集を行うよう指導される内容であった。これは、軍の名を借りた違法行為を排除し、無責任な募集を抑制することが目的であった。

その後、朝日新聞による報道がきっかけとなり、1992年から日本政府は慰安婦問題に対する認識を改めざるを得なくなった。加藤官房長官は、「当時の軍の関与は否定できない」と発言し、これが国の責任の認知につながった。

通達の解釈を巡る議論

この通達に対する解釈は研究者によって異なり、吉見義明は日本軍の関与を明確に示す証拠であると主張した。一方で、高橋史朗や小林よしのりなどの保守的立場の研究者は、「良い関与論」を主張し、文書はあくまでも間違った業者の取り締まりに重きを置いていると主張している。これに対し、軍の人的資源が求められた植民地の文脈を無視しているとの指摘もある。

政治的・歴史的な議論は、この通達が発せられた後も続いており、今もなお解釈や視点の相違が問題視されている。いずれにせよ、この通達は日本の戦時中の慰安婦制度がどのように機能していたかを理解する上で重要な資料であると言えよう。

まとめ

「軍慰安所従業婦等募集に関する件」は、日本軍の慰安婦制度の実態を探る上で不可欠の文書であり、その内容は今日においても多くの議論や研究を生んでいる。韓国や中国との歴史的な関係、さらには国際社会における日本の姿勢にまで影響を与えるこの問題は、今後も注目され続けることだろう。

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