軍隊を保有していない国家の一覧

軍隊を保有しない国家

軍隊を保有していない国家は、その国防体制において特有の事情を抱えています。これらの国々は、集団安全保障体制への参加、大国への防衛依存、経済的な理由、過去のクーデターや内戦の経験など、多様な要因によって軍隊を持たない選択をしています。

軍隊を保有しない理由

軍隊を保有しない理由は、大きく分けて以下の3つが挙げられます。

外交・経済上の理由

周辺国との深刻な対立がない、または軍事的な脅威にさらされる危険性が低い場合、軍隊を編成する必要性が政府や国民に認められないことがあります。また、経済的な理由から、十分な兵員数と装備を揃えることができない場合もあります。これらの要因が複合的に影響していることもあります。

ヨーロッパや太平洋、インド洋などのミニ国家の多くが、この外交・経済的な理由によって軍隊を保有していません。ただし、シンガポール、ブルネイ、バーレーンのように、ミニ国家でありながら経済力が高く、軍事的な脅威も潜在的に存在する国では、小規模ながらも最新鋭の兵器を装備した軍隊を維持しています。また、カリブ海の英連邦諸国では、治安維持や沿岸警備を主な任務とする、数百人規模のイギリス式の軍隊を保有している国もあります。

クーデター・内戦の予防

過去に軍隊がクーデターを繰り返してきた国では、政情不安の直接的な原因である軍隊を解散することで、根本的な解決を図ろうとする場合があります。コスタリカやハイチ、ドミニカ国などがこれに該当します。しかし、ハイチのように軍を解散した結果、地方での内乱を鎮圧できず、大統領が亡命を余儀なくされるようなリスクも存在します。また、セーシェルやモルディブのように、内乱を抑えきれずに軍を再建したケースもあります。

周辺国の介入、外国軍の占領による強制的な軍隊の解体

大国が小国の政権を武力介入で打倒した後、自国に都合の良い政権を樹立することがあります。この際、旧政権の支持基盤であった軍隊を強制的に解体することで、クーデターを予防し、政権の安定を図ることがあります。1980年代にアメリカの軍事侵攻を受けたグレナダやパナマが該当します。

また、戦勝国が敗戦国を占領し、軍隊を解体して、駐留する戦勝国軍が防衛を担う場合もあります。1955年の再軍備前の東西ドイツや、第二次世界大戦直後の日本、朝鮮半島などが該当します。

軍隊を保有しない主な国々の例

以下に、軍隊を保有しない主な国々について、その特徴と理由をまとめます。

バチカン市国: キリスト教の精神に基づき、武力紛争の回避を提唱しています。軍隊は保有していませんが、スイス衛兵と呼ばれる教皇直属の警察組織が存在し、イタリアの警察機関と協力して警備を行っています。
リヒテンシュタイン: コスト面から1868年に軍隊を解体しました。国家警察は隣接する諸国の軍と密接な関係を持っており、スイスの軍事的保護下にあるという意識が国内に広まっています。
コスタリカ: 憲法で常備軍の廃止を規定していますが、有事には徴兵制を行い軍を組織することができます。また、公安部隊には「国の自主性を守る」役割が与えられており、準軍隊として扱われることがあります。
パナマ: アメリカ軍のパナマ侵攻後、1990年に軍が解体されました。1994年の憲法改正で軍の非保有を宣言しています。
ソロモン諸島: 1998年の部族間抗争を自力で解決できず、オーストラリアとニュージーランドによる調停が行われました。2003年から2013年まで、オーストラリア・ニュージーランド主導の支援ミッション（RAMSI）が派遣されていました。
ツバル、バヌアツ: バヌアツでは、国家警察指揮下の準軍事部隊であるバヌアツ機動部隊が存在します。
モーリシャス: モーリシャス警察隊の指揮下に、軽歩兵レベルの戦力を持つ特別機動隊が存在します。

集団安全保障体制に参加している国家

これらの国々は、北大西洋条約機構（NATO）や地域安全保障システム（RSS）などの集団安全保障体制に参加することで、自国の安全を確保しています。

アイスランド: NATOに加盟しており、かつてはアメリカ軍が駐留していましたが、現在は沿岸警備隊と危機対応部隊を保有しています。
セントビンセント・グレナディーン、セントルシア、ドミニカ国、グレナダ: RSSに参加しており、独自の軍隊は保有していませんが、警察軍や沿岸警備隊を保有しています。

特定の国家に防衛を依存する国家

これらの国々は、防衛を他国に依存しています。多くの場合、歴史的なつながりや協定に基づいています。

サンマリノ: イタリアが防衛責任を負っています。
アンドラ: スペインとフランスが防衛責任を負っています。
マーシャル諸島、パラオ: 自由連合によりアメリカが防衛責任を負っています。
モナコ: フランスが防衛を約束していますが、緊急時を除き、フランス軍の派兵にはモナコの要請と同意が必要です。
サモア: ニュージーランドとの友好条約に基づき、有事の際はニュージーランドが支援します。
クック諸島、ニウエ: ニュージーランドが防衛責任を負っています。
キリバス: オーストラリアとニュージーランドが防衛を保障しています。
ナウル: オーストラリアが非公式ながら防衛を委任されています。

軍隊を再保有した国、または建国当初は軍隊を保有していなかった国

これらの国々は、過去の紛争や国内情勢の変化などによって、一度は軍隊を解体したり、保有していなかった軍隊を再編したりしています。

コモロ: 経済的な理由で国軍を持たず、外国人傭兵に防衛を依存していましたが、傭兵によるクーデターが多発したため、1996年に軍を建設しました。
モルディブ: 1988年のクーデター未遂事件をきっかけに、2006年に国防軍を建設しました。
セントクリストファー・ネイビス: 1980年に現役部隊を廃止しましたが、1997年に復活しました。
セーシェル: 1977年のクーデター後に、民兵がセーシェル人民防衛軍に改組されました。
日本: 第二次世界大戦後に軍隊を解体しましたが、1950年に警察予備隊（後の自衛隊）を設立しました。政府は自衛隊を軍隊とはみなしていませんが、国際法上は軍隊として扱われることがあります。
ドイツ: 第二次世界大戦後に軍隊を解体しましたが、1955年に西ドイツが連邦軍を組織し、東ドイツも1956年に国家人民軍を組織しました。
ハイチ: 1994年の軍事政権退陣後に軍を解体しましたが、2017年に国防軍を再招集しました。




このように、軍隊を保有しない国家は、それぞれ異なる事情と背景を持っています。これらの事例を通して、国家の安全保障に対する多様なアプローチを理解することができます。

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