輔

名称と分類

「輔（ほ）」は、古代中国で用いられた星座体系における星官（せいかん）の一つです。天の中心である紫微垣（しびえん）に属し、特に北斗七星に付き従う従属星座（附座）として位置づけられています。単独の星から構成されるため、「輔星（ほせい）」とも呼ばれます。一般的に「ホセイ」と音読みされますが、「そえぼし」という訓読みも古くから存在します。欧文表記では Foo Sing と記されます。

同定される星

輔星が現代天文学でいうどの星に対応するかについては、古くから議論の的となってきました。最も広く受け入れられているのは、おおぐま座のアルコル（80番星）と同定する説です。アルコルはおおぐま座のミザール（ζ星）のすぐ傍らに位置し、視力の良い者には肉眼で分離して見えることで知られています。しかし、古代中国の星図に描かれた位置関係の解釈や、当時の人々がミザールの近くにあるアルコルを肉眼で認識していたのかといった点について、過去には論争も存在しました。一時は、アルコルではなくおおぐま座の81番星とする説も唱えられましたが、現在ではやはりアルコルとする見方が通説となっています。

名前の由来

「輔（かばち／かまち）」という漢字は、元来、牛車や馬車などの荷台の両側面に取り付けられる板を意味します。これは、積荷が走行中に落下するのを防ぐための補強材、いわば車の側板です。中国の思想において、天の中心にある北斗七星は天子の乗る「帝車（ていしゃ）」に見立てられていました。その傍らに位置する輔星は、まるで帝車の両側を支え、運行を安定させる「輔」のように捉えられたと考えられます。この「補い助ける」という役割から、輔星は転じて、天子を補佐し、国の行政を司る最高位の家臣である「宰相（さいしょう）」をも象徴する星と見なされるようになりました。

伝わる俗信

輔星には、その見え方に関する様々な俗信が伝承されています。中国の古い天文観測、特に星占いにおいては、輔星が通常よりも明るく輝いて見える時、それは宰相に謀反の企てがある兆候であると信じられていました。物理学的な観点から見ると、アルコルやおおぐま座81番星は変光星ではないため、恒星自体の明るさが大きく変化する可能性は低いでしょう。しかし、もし輔星がアルコルであるならば、非常に明るいミザールのすぐ隣にあるため、大気の状態や観測者の視力、あるいは周辺の光害などによって、その見えやすさや相対的な明るさに違いが生じ、それが俗信の根拠となった可能性は考えられます。

一方、日本では、おおぐま座のアルコルは「じゅみょうぼし（寿命星）」や「しじゅうぐれ（四十暮れ）」などと呼ばれてきました。この星が見えにくくなったり、あるいは全く見えなくなったりすることは、その人の死期が近いことを示唆するという俗信が、かつて日本の各地に存在しました。これは、加齢による視力の衰えが、かつては視力検査の目安としても用いられたこの星を見分けられなくなることと結びつけられたためと考えられています。

興味深いことに、唐代に編纂された説話集『酉陽雑俎（ゆうようざっそ）』には、輔星を見ることができない者は長生きできない、すなわち見えないことが寿命が短いことにつながるという記述があり、これは日本の「見えなくなると死期が近い」という俗信とは逆の内容を示しています。

また、現代日本の文化にも影響を与えています。人気漫画『北斗の拳』に登場する、見えた者に死が近いことを告げるという「死兆星」は、この日本の寿命星伝説をモデルにしたものとされています。ただし、『北斗の拳』における死兆星は、元の俗信とは逆に「見えるようになる」ことが死の兆候と設定されている点が異なります。

このように、輔星は単なる天体としてだけでなく、その語義からくる政治的な象徴性、そして日中それぞれの文化に根差した多様な俗信や、さらには現代のフィクションにまで影響を与えた、非常に文化的・歴史的に豊かな意味合いを持つ星官と言えるでしょう。

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