輪違屋

輪違屋（わちがいや）

京都府京都市下京区の花街、島原に位置する輪違屋は、歴史ある置屋兼お茶屋として今なおその格式を保ち続けています。創業は元禄元年（1688年）と伝えられており、当初は置屋「養花楼」として産声をあげました。お茶屋としての営業を兼業するようになったのは、明治5年（1872年）以降のことです。

現在の建物は、安政4年（1857年）の再建とされており、明治4年（1871年）にはほぼ現在の姿に近いものになったといわれます。この建物は、昭和59年（1984年）に京都市指定有形文化財（建造物）の指定を受けており、歴史的な価値が高く評価されています。

輪違屋は、かつては芸妓なども抱えていましたが、現在は太夫のみを抱え、太夫の技芸を磨く教育の場であるとともに、格式高い宴席を提供する迎賓の場として営まれています。門前には「観覧謝絶」の札がかかげられており、古くからの慣習にならい、紹介のない新規の客は受け付けていない、いわゆる「一見さんお断り」の店として知られています。

建物内部には、数々の歴史を物語る特色ある空間や所蔵品が残されています。特に知られているのは、「傘の間」と「紅葉の間」です。

傘の間: 太夫道中に使われる大きな傘を襖に貼り込んだ意匠が特徴です。この部屋の襖に貼られた傘には「高」の文字が入っていますが、これはかつて当主の姓が高橋であったことに由来すると伝えられています。（「高」の字体は髙島屋のマークと同じ）
紅葉の間: 本物の紅葉の葉を型取りし、その上から彩色を施した壁面が使われていることで知られています。

これらの特徴的な部屋は、いずれももとは当主の居室として使われていたとされます。

また、輪違屋には幕末の志士ゆかりの品も伝わっています。1階には新選組局長・近藤勇が書いたとされる屏風が、2階には長州藩士・桂小五郎（木戸孝允）が書いたとされる掛軸が残されています。

浅田次郎氏の小説やテレビドラマ『輪違屋糸里』の舞台としても広く知られることとなりましたが、作中の主人公・糸里が実際にこの輪違屋に在籍したことを示す記録は、輪違屋側には残されていないとされています。「維新の名花」と謳われた桜木太夫が在籍したことでも知られますが、小説やドラマで描かれる糸里と桜木太夫を結びつけるエピソードは創作である点に留意が必要です。

近年では、建物の維持・修復のため、京都市文化財保護課と連携し、クラウドファンディングが実施されました（2022年11月開始、12月成立）。これは、貴重な歴史的建築物を未来へ継承しようとする取り組みとして注目されました。

輪違屋は、数百年にわたり島原の歴史と文化を静かに見守り、太夫という特別な存在とともに、日本の伝統芸能と格式ある迎賓の文化を受け継いでいます。その門をくぐることは容易ではありませんが、京都市指定文化財としてその存在は護られており、外部からも歴史的な佇まいを垣間見ることができます。文献や資料を通じて、その深い歴史に触れることも可能です。

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