輸液ポンプ

輸液ポンプ（ゆえきポンプ）

概要

輸液ポンプは、点滴静脈注射によって患者へ薬液や輸液を投与する際に用いられる医療機器です。手動での点滴速度調整に比べ、あらかじめ設定された量を精密な速度で持続的に投与することを可能にし、治療の安全性と効率性を高める重要な役割を果たします。

原理

多くの輸液ポンプは、「ローラーポンプ方式」と呼ばれる原理を採用しています。この方式では、弾力性のある専用の輸液チューブをポンプ本体の溝にセットし、内部のローラーがチューブを順番に回転しながら押しつぶします。チューブを押しつぶすことで、チューブ内の液体が一定方向に送液され、これにより輸液の流量が制御されます。設定された流量と総量に基づいて、必要な薬液や輸液を正確に患者へ送り届けることができます。

主な機能と安全対策

輸液ポンプには、安全かつ確実に輸液を行うための多様な機能と安全対策が備わっています。

輸注速度・量の精密設定: 投与速度（ml/h）や投与予定量（ml）を細かく設定でき、計画通りの輸液管理が可能です。
開始忘れアラーム（Offアラーム）: 装置の電源が入っているにもかかわらず、設定後に輸液開始の操作が行われない場合に警告音が鳴り、投与忘れを防ぎます。
閉塞アラーム: 輸液ルートの屈曲や、患者側の血管確保が困難になった場合など、チューブ内に設定以上の高い圧力がかかったことを検知すると作動します。これは、薬液が適切に流れていないことを示します。
液切れ・空輸液アラーム: 輸液バッグが空になったり、輸液ラインに空気が混入したりした際に作動する機能です。チューブ内の液体の有無や気泡をセンサーで検知し、患者への空気の誤投与を防ぎます。（機種による）
その他の安全機能: バッテリー残量低下警告、設定ミスの防止機能、履歴記録機能など、機種によって様々な安全対策が搭載されています。

使用上の注意点

輸液ポンプを安全かつ効果的に使用するためには、いくつかの注意が必要です。

アラーム発生時の対応: 各種アラームが鳴った場合は、その原因を迅速に特定し、適切に対処する必要があります。特に閉塞による高圧アラームの場合、チューブ内には高圧で薬液が充満しています。もしカテコールアミンや血圧降下薬のような、少量でも急速に投与されると影響が大きい薬剤を使用している場合、安易に閉塞箇所を解除すると薬液が一気に患者の体内へ流れ込む危険性があります。このような状況では、まず輸液ポンプを停止し、ルートを患者から外すなどしてチューブ内の圧力を安全に解放してから、閉塞の原因を取り除くことが重要です。
電源管理: 短時間だけ輸液を止めたい場合は、電源を切るのではなく「一時停止」機能を使用すべきです。電源を切ってしまうと、再開時に設定を再度行う必要が生じたり、Offアラームが作動しなかったりする場合があります。特に循環作動薬など、投与の中断が患者の状態に影響を与える薬剤では、一時停止を活用することが推奨されます。
機器の設置: 多くの輸液ポンプは3～4kg程度の重量があります。点滴スタンドに設置する際は、機器の重みでスタンドが転倒しないよう、安定した場所に設置し、必要に応じて固定するなどの転倒防止措置を講じることが重要です。
輸液チューブの管理: 使用する輸液チューブの弾力性は、長時間の使用でわずかに低下することがあります。輸液精度を保つため、特に長時間連続使用する場合は、ローラーの当たるチューブの位置を定期的に少しずつずらしたり、メーカーが推奨する交換時期に従ってチューブを交換したりすることが望ましいです。
輸注量の誤差について: 輸液チューブ自体の抵抗や、投与する薬液の粘性などにより、設定した量と実際の輸注量にわずかな誤差が生じることがあります。より高い精度での輸注が求められる場合や、微量かつ高価な薬剤の投与には、構造上より精密な投与が可能なシリンジポンプの使用が検討されることがあります。

シリンジポンプとの比較

輸液ポンプは比較的大量の輸液を継続的に投与するのに適していますが、前述の誤差の可能性から、特に厳密な精度が要求される薬剤（例：ごく微量の強力な薬剤）の投与にはシリンジポンプが選ばれることがあります。シリンジポンプは注射筒（シリンジ）を直接機械で押し出すため、より精密な微量投与が可能です。

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