辰巳信哉

辰巳信哉（たつみ しんや、1940年 - 2007年12月27日没）は、日本の造園分野において顕著な足跡を残した地方公務員です。特に兵庫県における公園緑地の整備、管理、そしてその歴史研究に情熱を傾け、多大な貢献をしました。

生涯とキャリア

兵庫県赤穂郡上郡町に生まれた辰巳氏は、岡山大学農学部園芸学科で造園に関する専門知識を修得しました。大学卒業後、1962年に兵庫県庁に入庁。以来、その公務員としてのキャリアのほぼ全てを一貫して公園部門に捧げました。

兵庫県職員として、辰巳氏は県内の様々な県立公園の計画、設計、建設、そして供用開始後の維持管理といった業務に深く関わりました。県民が自然と触れ合い、憩える質の高い緑地空間を創出することを目指し、用地選定から詳細設計、工事監理、さらには年間を通じた適切な管理運営計画の策定に至るまで、公園づくりの各段階において中心的な役割を果たしました。長年の実務経験を通じて培われた知識と現場感覚は、兵庫県の公園緑地行政の推進において極めて重要なものでした。1993年には、県庁の公園行政を統括する立場である公園緑地課長に就任し、組織を率いて県全体の緑地環境整備の方向性を定め、その実現に尽力しました。

退職後の活動と功績

2000年に県庁を定年退職した後も、辰巳氏は造園分野、特に公園への情熱が衰えることはありませんでした。退職後は、公益財団法人兵庫県園芸・公園協会の常務理事に就任し、県内の公園のより良い管理運営や、緑化の推進、公園を通じた地域活性化活動などに携わりました。また、日本造園修景協会やランドスケープコンサルタンツ協会といった全国的な造園関連団体の理事も務め、地方自治体での豊富な経験を全国に共有し、造園業界全体の技術向上や専門家の育成にも貢献しました。これらの活動を通じて、造園が担うべき社会的な役割や、公園が地域社会にとって持つ重要性を広く訴えました。

2005年には、自身の長年にわたる経験と専門知識を活かすため、有限会社パークサービス研究所を設立しました。ここでは、公園に関するコンサルティング業務や研究活動を行い、より実践的な視点から公園の課題解決や新たな価値創造に取り組みました。

辰巳氏の造園分野における長年の功績は高く評価され、2002年には第24回日本公園緑地協会北村賞を受賞しました。この賞は、日本の公園緑地に関する計画、設計、施工、管理運営、研究、教育、普及啓発等の分野で顕著な業績を挙げた個人や団体に贈られる権威ある賞であり、辰巳氏の貢献が全国レベルで認められた証と言えます。

著作活動

辰巳氏は、その深い学識と豊富な実務経験、そして公園史への関心から、数多くの書籍を執筆・編著しました。これらの著作は、兵庫県の公園の歴史や公園管理の実務に関する貴重な記録、そして後世への指針となっています。

主な著作には以下のものがあります。

『神戸からの公園文化 兵庫の公園 1868-2000』（ブレーンセンター、2000年）：明治維新以降の兵庫県における公園の歩みを丹念にたどった歴史的概説書です。
『かくて緑は残った 甲山森林公園の歴史』（日本造園修景協会兵庫県支部発行、ブレーンセンター発売、2002年）：特定の県立公園である甲山森林公園の成り立ちや緑地保全の経緯を詳細に記したものです。
『西武庫公園・西猪名公園の歴史』（新聞総合出版センター、2003年）：兵庫県内の主要な県立公園の歴史を記録したシリーズの一冊です。
『歴史の証人明石公園』（神戸新聞総合出版センター、2005年）：地域のランドマークである明石公園の歴史的変遷や意義に焦点を当てた著作です。
『公園管理運営マニュアルの作り方』（学芸出版社、2006年）：公園を適切に維持管理し、安全かつ魅力的な空間を保つための実践的な手法を解説した実務担当者向けのガイドブックです。
（編著）『兵庫県立舞子公園百年史 明石海峡を見つめて』（兵庫県園芸・公園協会、2001年）：舞子公園の百年にわたる歴史を多角的な視点から編纂した記念誌です。

これらの著作を通じて、辰巳氏は自らの経験や研究成果を広く共有し、公園緑地の重要性や歴史的価値、そして効果的な管理運営の必要性を啓蒙しました。

辰巳信哉氏は、生涯をかけて兵庫県の緑豊かな環境づくりに貢献し、地方公務員としての枠を超えて、造園史の研究者、教育者、そして実践家としても多大な功績を残しました。彼の情熱と努力によって整備・保全された公園や、執筆した書籍は、現在の兵庫県の緑地景観を形作る上で欠かせないものとなっています。

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