農本思想

農本思想の概要

農本思想（のうほんしそう）は、東アジアにおいて特に重要視された社会思想で、「農は国の本」論に立脚しています。この思想は、国家や社会において農業が持つ重要性を強調し、食料の安定供給が国家の繁栄に不可欠であることを示しています。この考え方は時には「農本主義」とも呼ばれ、特に近現代の日本においても影響を及ぼしましたが、ここでは古代から近代にかけての中国日本の文脈に焦点を当てることにします。

農本思想の歴史的背景

農本思想が発展した背景として、近代農業の未発達な時代における農業生産の不安定さが挙げられます。収穫の不作が頻繁に発生し、それが食料価格を上昇させ、場合によっては飢饉などの社会不安を引き起こす要因となりました。このような状況において、食料の確保は国家と社会にとって最重要な課題となり、それに伴い、農業を保護し、重視する政治的経済的思想が形成されました。

古代中国では、農業を生み出すために土地を大切にするという思想が見られ、これが後に重農主義へと発展していきます。当時の法家や農家、儒家らが特にこの主張に積極的であり、彼らの考え方は政治思想の中核を成し、経済政策や社会政策の基礎となりました。

江戸時代においても商業の統制を通じて物価の安定を図る政策が存在しましたが、これらは社会経済の実態に合わず、しばしば失敗に終わりました。農本主義における「本」は農業従事者や生活必需品を生産する手工業を指し、「末」は贅沢品を生産する商工業者を意味しています。

特に中国では、商業活動によって富を築いた地主や商人、豪族たちが土地を兼併し、その結果として政治的な権力を強め、社会浄化を脅かす存在となるケースも見られました。このような流れの中で、農業に従事する人々が流民化し、社会秩序が混乱する要因となることもあったのです。

重農主義との関係

重農主義と農本思想はしばしば類似性が指摘されます。17世紀から18世紀にかけて、中国の思想がヨーロッパに紹介され、特にイエズス会の宣教師による影響を受けた点が挙げられます。これに対して、重農主義は農業を経済学的に捉え、富の源泉と見なしましたが、農本思想は農業を国政の基礎とする観点から捉えている点において異なります。

さらに、明治時代に入ると日本でも農本主義が草分け的に登場しますが、これは資本主義の時代の中で周縁化する農業の復権を目指すものであり、前近代の農本思想とは質的に異なる立場にあります。

結論

農本思想は、特に東アジアにおける国家や社会に対する農業の重要性を示す思想であり、歴史的には多くの王朝や政策に影響を与えました。農業の安定供給が国の繁栄につながることを説いたこの思想は、今もなおその意義を考える上で重要な観点を提起しています。農本思想の研究は、古代の政治経済状況を理解し、農業と社会の関わりを深く知るために不可欠なのです。

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