辻村益朗

辻村益朗（つじむら ますろう、1934年 - ）は、日本の装丁界、そして絵本の世界に多大なる貢献を果たした巨匠である。愛知県岡崎市に生まれ育ち、宿屋を営む家系の家庭環境で、幼い頃から絵画に囲まれた生活を送った。母親が和装の師匠だったことも、彼の美意識形成に影響を与えたことは想像に難くない。

岡崎北高等学校時代には、のちに親友となる絵本作家、瀬川康男氏と美術部に所属。才能豊かな仲間との交流は、彼の創作活動の礎となったに違いない。その後、愛知学芸大学（現・愛知教育大学）美術科を卒業し、本格的なキャリアをスタートさせる。

辻村氏の真価が世に知られるようになったのは、1960年代以降のことである。同郷の瀬川康男氏の処女作『きつねのよめいり』（文：松谷みよ子）のレイアウトを担当。この作品は福音館書店の『こどものとも』で発表され、大きな反響を呼び、彼の才能を世に知らしめた。

その後、福音館書店を中心に、数々のロングセラー児童書の装丁を手がけた。特に、福音館古典童話シリーズでは、『海底二万海里』『神秘の島』『ガリヴァー旅行記』『ハックルベリー・フィンの冒険』『ニルスのふしぎな旅』など、名だたる古典的名作の装丁を、独自のセンスで鮮やかに彩った。その数は1000冊を超えるといわれ、日本の児童書出版史に大きな影響を与えたことは間違いない。

彼が担当した作品は、福音館古典童話シリーズだけにとどまらない。『タンタンの冒険』シリーズなど、多くの出版社、多くの作品において、その卓越したデザインセンスが活かされている。単に本を美しく飾るだけでなく、物語の世界観を見事に表現する、まさに「装丁家」としての真骨頂を発揮したといえるだろう。

また、辻村氏は装丁家としての活動にとどまらず、自ら絵本作家としても活躍した。『親子であそぶあやとり絵本』『親子であそぶおりがみ絵本』『親子であそぶつくりかた絵本』など、子どもたちが創造性を育むための作品を数多く世に送り出した。これらの作品は、彼の温かい人柄と、子どもたちへの深い愛情が感じられる、珠玉の作品群となっている。

さらに、彼は「絵入り本」の研究・蒐集家としても知られており、その知識と経験は彼の装丁家としての活動に大きな影響を与えたことは想像に難くない。

2010年、盟友である瀬川康男氏の逝去という悲しみを乗り越え、2011年には『瀬川康男画集 いきとしいけるもの』（講談社）の監修を務めた。これは、彼の瀬川氏への敬愛の念、そして長年にわたる友情の証と言えるだろう。

辻村益朗氏の功績は、単に多くの本の装丁を手がけたという事実だけではない。彼の作品は、日本の児童文学文化に深く根ざし、世代を超えて愛され続けている。日本の児童書の黄金時代を支えた、まさに巨匠と呼ぶにふさわしい存在と言えるだろう。彼の作品は、これからも多くの読者、そして子どもたちに感動と喜びを与え続けることだろう。

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