近世説美少年録

近世説美少年録：曲亭馬琴の未完の物語

曲亭馬琴の晩年、代表作『南総里見八犬伝』と並行して執筆された読本『近世説美少年録』。その続編『新局玉石童子訓』と合わせて、多くの人に読まれています。文政12年（1829年）から刊行が始まり、天保3年（1832年）に一度中断。その後、弘化2年（1845年）に『新局玉石童子訓』として再開されましたが、嘉永元年（1848年）、馬琴の死によって未完に終わりました。版元は当初千翁軒でしたが、後に文渓堂へと変わっています。挿絵は歌川国貞（二代豊国）と魚屋北渓が担当しました。

毛利元就と陶晴賢、美少年と悪少年の物語

この作品は、毛利元就と陶晴賢の戦いを題材に、元就を大江杜四郎、晴賢を末朱之介という架空の美少年と悪少年として描いた物語です。馬琴は以前から、元就を善、晴賢を悪として描くことに強い関心を抱いており、別の作品『稚枝鳩』でも両者の戦いが背景として描かれています。

『近世説美少年録』では、青年期の大江杜四郎と末朱之介が諸国を流浪する姿が描かれています。杜四郎は美少年として描かれる一方、朱之介は悪事を重ねていきます。興味深いのは、朱之介の出自です。「お夏清十郎」を思わせる阿夏と瀬十郎の子として描かれており、近松門左衛門や井原西鶴の作品では美化されることが多いこのカップルを、馬琴は淫奔者として描いています。これは馬琴独特の視点と言えるでしょう。

未完のまま終わった物語

本来、物語は元就と晴賢の戦いを描く予定でしたが、馬琴の急逝によって未完に終わってしまいました。そのため、物語の結末は読者の想像に委ねられることとなります。しかし、馬琴の独特の視点と、美少年と悪少年の対比、そして歴史上の人物を題材とした大胆な設定は、この作品を魅力的なものとしています。

近年の刊行状況

『近世説美少年録』は現代でも広く読まれており、様々な形で刊行されています。例えば、叢書江戸文庫（国書刊行会、1993年）、新編日本古典文学全集（小学館、1999-2001年）など、複数の全集に収録されています。また、近代デジタルライブラリーでも閲覧可能です。これらの刊行物を通して、馬琴の未完成ながらも魅力的な作品に触れることができます。

まとめ

『近世説美少年録』は、曲亭馬琴の晩年の代表作の一つであり、歴史上の人物を題材とした大胆な設定、美少年と悪少年の対比、そして馬琴独特の視点が魅力の作品です。未完に終わったことが惜しまれる一方、読者の想像力を掻き立てる魅力も持ち合わせています。様々な刊行物から入手可能なので、興味のある方はぜひ読んでみてください。

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