近代主義 (カトリック)

カトリックにおける近代主義（モダニズム）

カトリックにおける近代主義とは、19世紀後半から20世紀初頭にかけてカトリック教会内部で起こった思想運動です。この運動は、カトリック信仰の伝統を、当時の最新の認識論や歴史学などの知見と照らし合わせて再解釈しようと試みました。特に、聖書解釈、教義、歴史観といった分野で、伝統的な見方に対する批判的な検討が行われました。

特徴

カトリックにおける近代主義は、単一のまとまった思想体系ではなく、フランスをはじめとする各国で独自に発展し、多様な形態を取りました。共通する特徴としては、以下のような点が挙げられます。

聖書に対する批判的視点: 聖書を歴史的・批判的に研究する聖書批評学の見解を全面的に採用し、聖書に内在する矛盾を解消しようとする試みを放棄しました。聖書の著者が歴史的制約を受けていたことを強調し、プロテスタントの学者以上に懐疑的な態度を示しました。
主知主義の排撃と実践の重視: 知性偏重の傾向を批判し、教義よりも実践を重視しました。行動哲学やプラグマティズムを取り入れ、キリスト教の本質を生命そのものの中に捉えようとしました。
歴史の目的論的解釈: キリスト教の歴史的発展を目的論的に解釈し、その起源については懐疑的な見方を示しました。

フランスのロアジは、ハルナックを批判した著作『福音と教会』を出版し、大きな議論を呼びました。イギリスではフォン・ヒューゲルとティレル、イタリアではムリが近代主義の論者として知られています。

ローマ教皇庁の対応

近代主義の思想は、1907年にローマ教皇ピウス10世によって否定され、排斥・断罪されました。これは、近代主義が伝統的なカトリックの教義や権威を脅かすものと見なされたためです。

評価

ペトロ・ネメシェギは、『新カトリック大事典』の「近代主義」の項で、近代主義の功罪について以下のように述べています。

近代主義者たちは、神の子イエス・キリストの受肉や神の啓示、カトリック教会の神学的意味、教皇や司教が担う教導職といった教義を十分に理解できませんでした。それは、宇宙の歴史に介入し、人に語りかける主体的な存在としての神、人が認識できる対象としての神を認めようとしなかったからです。

しかし、啓蒙主義以降の近代的な学問の成果と、当時のカトリック教会の保守的な聖書解釈やスコラ哲学に基づく伝統的な教えとの乖離を調和させようとした意図は正当なものでした。当時のカトリック教会が、近代主義者たちの主張に真剣に向き合わず、議論を避けて抑圧したのは残念なことでした。

参考文献

グローバル世界大百科事典

関連項目

* 自由主義神学

もう一度検索