近代説話

『近代説話』の概要

『近代説話』（きんだいせつわ）は、日本の文芸同人誌であり、1957年5月に創刊されました。この同人誌は、創刊から6年の間に全11冊を発行し、多くの著名な作家たちを輩出しました。特に司馬遼太郎や寺内大吉などの名作家が参加し、文学界に新たな風を吹き込む役割を果たしました。

創刊の背景

『近代説話』は、大阪産経新聞の文化部に所属していた司馬遼太郎が、石浜恒夫や東京から来た寺内大吉と共に企画したものでした。これにより、彼らは文学の説話性の重要性を再認識し、「面白い小説を大人の視点で書く」というモットーを掲げました。司馬は講談倶楽部賞を受賞した際に、「小説という形態を説話の原型にまで還元してみせる」との言葉を残しており、その意志が『近代説話』の創刊に色濃く反映されています。

同人誌の方針としては、同人同士での作品批評を行わず、外部への批評活動も行わないというスタンスが取られていました。これにより、懸賞や候補作への応募経験のある作家を集めることが可能となり、多彩なメンバーが参加することができました。

経済的な支援

同人費は徴収せず、優れた先輩作家の寄付や広告費を通じて経済基盤を構築しました。その結果、直木賞の受賞者が経費負担に参加するなど、強固な支援体制が整えられました。

創刊号とその影響

創刊号には、司馬遼太郎、寺内大吉、石浜恒夫を含む多くの作家が執筆しています。具体的には世羅啓一郎、吉田定一、清水正二郎（胡桃沢耕史）、花岡大学などが名を連ねました。続いて辻井喬、尾崎秀樹、伊藤桂一、黒岩重吾、永井路子といった著名作家が同人として加わり、内容の充実を図ります。

初期の刊行物には、1号と2号に1500部の発行が行われ、その定価は70円でした。特に1号に掲載された司馬の作品『戈壁匈奴』は西夏の都城を題材にしたものであり、発行当初は書店から民俗学や仏教の雑誌として誤解されることがありました。このことを受けて、2号からは表紙に「文芸雑誌」のサブタイトルが追加されました。

直木賞作家の輩出

短い同人活動期間において、『近代説話』は6人の直木賞受賞者を輩出しました。受賞作は以下の通りです：

• - 司馬遼太郎『梟の城』
• - 寺内大吉『はぐれ念佛』
• - 黒岩重吾『背徳のメス』
• - 伊藤桂一『蛍の河』
• - 永井路子『炎環』
• - 胡桃沢耕史『黒パン俘虜記』

これらの作品は、『近代説話』に載せられたものも多く、同人誌が創作の場として実を結んだことを示しています。文壇における『近代説話』の影響は、まさにその設立当初から多岐にわたり、文学の世界において重要な役割を果たし続けました。さらに、同人誌の存在は、今もなお若手作家たちにとって一つの目標として意義深いものとなっているのです。

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