近松物語

近松物語：悲恋の物語と時代を超える魅力

1954年、溝口健二監督によって世に送り出された白黒映画『近松物語』は、日本[[映画]]史に燦然と輝く一作です。近松門左衛門の浄瑠璃作品『大経師昔暦』（通称「おさん茂兵衛」）を下敷きにし、川口松太郎が戯曲化した『おさん茂兵衛』を原作としています。しかし、映画の脚本は近松作品に加え、同じ事件を題材にした西鶴の『好色五人女』の「おさん茂右衛門」の要素も取り入れ、より複雑で奥深い物語に仕上がっています。

溝口監督は、スター俳優を起用することを嫌っていたことで知られていますが、この作品では大映社長の永田雅一の強い要望により、長谷川一夫を主演に迎えています。この異例のキャスティングも、映画に独特の色合いを与えていると言えるでしょう。

映画は、京都烏丸の大経師に仕える茂兵衛と、主人の妻おさん、そして女中のお玉の三角関係を中心に物語が展開します。おさんの兄からの金策依頼をきっかけに、茂兵衛は主人の知らないところで店の金を融通しようとしますが、それがばれそうになった際に、お玉の機転によって窮地を脱します。しかし、主人がお玉に想いを寄せていたことから、茂兵衛はお玉との仲を誤解され、軟禁状態に置かれてしまいます。

その後、お玉の寝間に主人が忍び込むという話を聞いたおさんは、お玉の布団で主人の来訪を待ちますが、現れたのは屋根裏から抜け出した茂兵衛でした。しかし、この様子を番頭格の助右衛門に見られ、不義密通の罪を着せられ、二人は家を追われる身となります。

絶望の淵に立たされた二人は、琵琶湖で身を投げようとするも、茂兵衛からのおさんへの愛の告白をきっかけに、互いの気持ちを確認し、死を思いとどまります。しかし、逃亡生活は長くは続かず、役人に追われ、親からも疎まれ、ついに捕らえられてしまいます。

不義密通の罪で町内引き回しの上、極刑を宣告された二人ですが、真実の愛を貫き通した彼らの最期は、穏やかで晴れ晴れとしたものでした。この結末は、観客に深い感動と余韻を残し、物語に重厚な意味を与えています。

『近松物語』は、単なる悲恋物語にとどまらず、権力や社会のしがらみに翻弄されながらも、自らの愛を貫く人間の強さと尊さを描き出しています。キネマ旬報ベストテン第5位にランクインしたことはもちろん、「映画人が選ぶオールタイムベスト100・日本[[映画]]編」で第49位に選ばれていることからも、その高い芸術性と普遍的な魅力が認められていると言えるでしょう。時代を超えて多くの人々の心を捉え続ける『近松物語』は、日本[[映画]]史に残る不朽の名作として、これからも多くの人々に鑑賞され続けることでしょう。

物語の背景には、近松門左衛門の『大経師昔暦』と、西鶴の『好色五人女』という二つの古典文学作品の存在が大きく影響しています。これらの作品を巧みに融合させることで、より深みのある人間ドラマが構築されています。さらに、満月寺浮御堂といった具体的な場所の設定も、物語にリアリティと奥行きを与えています。

『近松物語』は、単なる娯楽作品としてだけでなく、歴史的、文化的にも貴重な作品であり、日本の伝統芸能や文学に対する理解を深める上でも、大変意義のある作品と言えるでしょう。現代においても、その芸術性、物語の深さ、そして人間の普遍的な感情を描き出した点において、高い評価を受けています。

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