近田玲子

近田玲子氏（1946年11月2日生まれ）は、日本の照明デザイン分野において傑出した存在として知られています。彼女は、光の力を最大限に引き出し、建築物や都市空間に深みと表情を与えるデザインを数多く生み出してきました。

そのキャリアは、東京芸術大学のインダストリアルデザイン科（当時）でデザインの基礎を学んだことから始まります。大学卒業後、日本の照明デザイン界の草分けであり、多くの著名なプロジェクトを手がけた石井幹子氏のデザイン事務所に入所。ここで実務経験を積みながら、照明デザインの専門知識と技術、そして空間に対する独自の視点を培いました。

長年にわたる経験と実績を重ねた後、近田氏は1986年に独立を果たし、自身の名を冠した近田玲子デザイン事務所を設立しました。これを機に、彼女はより自由な発想と独自の哲学に基づいた照明デザイン活動を展開するようになります。単に明るくするだけでなく、光の質、色、方向、そして影との関係性を深く追求することで、空間の機能性はもちろんのこと、そこに集う人々の感情や体験に訴えかけるようなデザインを目指しています。

近田氏が手がけた代表作は多岐にわたります。医療建築においては、機能性と患者の癒しを両立させた聖路加国際病院。格式ある空間に光による演出を加えた目黒雅叙園。個人の生活空間に寄り添う温かみのある光を設計した巣鴨の2世帯住宅。教育の場にふさわしい知的で開放的な雰囲気を創出した明治大学リバティ・タワー。歴史的建造物の威厳と美しさを夜間に際立たせた首里城公園のライトアップ。クリスマスの象徴として街を彩るミキモトクリスマスイルミネーション。優れた音響と空間美を両立させたミューザ川崎。都市開発における光の役割を示したハートアイランド新田一番街。そして、日本の文化財を守り、展示空間を演出する九州国立博物館など、その活動範囲は広範かつ多様です。

これらのプロジェクトを通じて、近田氏は建築家や空間の利用者との密な対話を通じて、その場に最適な「光のあり方」を探求してきました。それは時にダイナミックな演出であり、時に静かで繊細な光の操作です。それぞれの空間の個性や目的に合わせ、光を Sculptural（彫刻的）に扱い、見る者に新たな発見や感動を提供しています。

その卓越したデザイン手腕は、国内外で高く評価されています。特に、北米照明学会（IESNA）からはAward of Merit、建築照明の分野で顕著な成果を称えるPaul Waterbury Award of Excellence、そして屋内外の建築照明における優れた業績に贈られるEdwin F. Guth Memorial Award of Excellenceなど、複数の権威ある賞を受賞しています。また、国際照明デザイナー協会（IALD）からもAward of Citation、Award of Meritといった栄誉に輝いており、世界の照明デザイン界におけるその貢献と影響力の大きさを物語っています。

私生活では、天文学者として著名な近田義広氏を夫に持ちます。また、教育者として知られた近田廣司氏が義父にあたります。

近田玲子氏は、半世紀にわたるキャリアを通じて、光の可能性を広げ、日本の建築や都市景観に質の高い光環境をもたらしてきました。彼女の仕事は、照明デザインが単なる機能的な要素ではなく、空間の質を高め、人々の体験を豊かにする芸術であることを示しています。今後も、その探求心と創造性をもって、新たな光の世界を切り拓いていくことでしょう。

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