通報 (学術雑誌)

概要

『通報』（T’oung Pao、中国語では通报）は、1890年に産声を上げた、歴史的に重要な学術雑誌です。この刊行物は、世界で初めて中国学を専門領域とした学術誌として創刊されました。その名称である「通報」は、中国語で「発布」や「告示」といった意味を持ち、研究の状況や成果を広く知らせるという雑誌の役割を示唆しています。

歴史と名称

創刊当時の正式名称は、『通報―アジアオリエンタル(中国、日本、朝鮮、インドシナ、中央アジア及びマレーシア)の歴史、言語、地理及び民族に関する研究の為の記録』という、対象範囲を明確に示唆するものでした。この長い名称からもわかるように、本誌は当初から、中国本土に留まらず、日本、朝鮮半島、インドシナ（現在のベトナム、ラオス、カンボジアなど）、中央アジア、そしてマレーシアといった広範なアジア東部地域を研究対象に含んでいました。取り扱う分野も、歴史、言語学、地理学、民族学といった多様な学問領域に及び、アジア東部研究を横断的かつ包括的に探求する試みでした。

発行と編集体制

本誌は、長年にわたり、オランダのライデンに拠点を置く国際的な学術出版社、ブリル社（Brill）から刊行されています。ブリル社は、特に人文学、アジア研究、中東研究などの分野で質の高い学術出版を行っていることで知られています。編集体制においては、創刊当初から国際協調の精神が反映されており、フランスとオランダからそれぞれ一名ずつが共同で編集責任者を務める形が取られました。初代の編集責任者として、フランスの中国学者アンリ・コルディエと、オランダの東洋学者グスタフ・シュレーゲルという、当時の東洋学を代表する二人の碩学がその任にあたりました。彼らのリーダーシップのもと、『通報』は初期から高い学術水準を維持しました。

著名な寄稿者

『通報』には、創刊初期から20世紀にかけて、アジア研究の発展に寄与した多くの著名な学者たちが編集や寄稿者として関わりました。例えば、中央アジア探検で貴重な文献を発見したフランスのポール・ペリオや、敦煌文献をはじめとする中国古代史・文献学の権威であるエドゥアール・シャヴァンヌといった研究者たちが、重要な研究成果を本誌に発表しました。彼らのような第一級の研究者たちが名を連ねたことは、『通報』が国際的な中国学研究の中心的な雑誌としての地位を確立する上で、極めて大きな役割を果たしました。

意義

『通報』は、19世紀末という早い段階で、特定の地域や文化に焦点を当てた専門的な学術雑誌のモデルを示しました。それまで比較的分散していたアジア東部に関する研究を、一つの権威ある雑誌上で発表・議論する場を提供することで、中国学および関連分野の研究の組織化と発展に大きく貢献しました。多くの画期的な研究論文がこの雑誌を通じて世界に紹介され、後続の研究者たちに大きな影響を与え続けています。現在もなお、ブリル社から刊行が続いており、中国学研究の最前線を知る上で不可欠な国際学術雑誌としての役割を果たしています。

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