速水御舟

速水御舟：写実と装飾の融合、夭折の天才画家

速水御舟（はやみぎょしゅう、1894-1935）は、大正から昭和初期にかけて活躍した日本画家です。本名は蒔田栄一。幼少期から絵画の才能を示し、松本楓湖に師事して画業をスタートさせました。

才能が開花、そして新たな境地へ

御舟は、従来の日本画にはない写実性を追求しました。細密な描写で知られる一方、やがて『炎舞』に見られるような象徴的で装飾的な表現へとその画風は大きく変貌を遂げます。彼の作品は、写実主義と装飾性を高度に融合させた、唯一無二のものです。

初期の作品は、師である今村紫紅の影響を色濃く反映しており、新南画の様式が見て取れます。しかし、御舟は琳派の装飾的構成や西洋絵画の写実技法を巧みに取り入れながら、独自の境地を開拓していきました。

特に注目すべきは、代表作である『炎舞』と『名樹散椿』です。『炎舞』は、蛾が炎に魅せられて舞う様子を、緻密な写実と幻想的な表現が見事に融合した作品。その背景の深い闇は、御舟の独自の技法によるもので、何度描こうとしても同じものは二度とできないと語っていたと言われています。昭和天皇もその生き生きとした蛾の描写に感嘆したと伝えられています。

一方、『名樹散椿』は、椿の老木を大胆な構図で描いた作品です。写実的な描写の中に、キュビズムにも似た表現が取り入れられ、革新的な試みがなされています。背景の金地は、金箔や金泥ではなく「撒きつぶし」という技法を用いており、フラットで光沢を抑えた独特の質感を実現しています。

これらの作品は、日本画の伝統にとらわれない、御舟の自由な発想と高い技術力を余すことなく示しています。

惜しまれつつ幕を閉じた生涯

御舟は、若くして左足切断という不幸にも見舞われましたが、画への情熱を失うことはありませんでした。しかし、1935年、わずか40歳で腸チフスのため急逝しました。彼の早すぎる死は、多くの美術関係者に深い悲しみを与えました。横山大観は、「速水君の死は、日本の為に大きな損失である」と述べています。

御舟の作品数は、寡作であったことや関東大震災での焼失、自ら気に入らない作品を焼き捨てる習慣などにより、現存するものは600点ほどと言われています。しかし、その少ないながらも、どれもが傑作揃い。彼の画業は、日本画の未来を担う存在として、大きな期待を集めていました。

御舟の画業を彩るエピソード

御舟は、画商から高額な依頼があっても、自分自身のモチベーションがなければ絵を描こうとしませんでした。そんな御舟に画商が懇願した逸話や、北大路魯山人から書道の才能を評されたエピソードなども残されています。

後世への影響と評価

速水御舟は、短い生涯の中で、日本画の世界に大きな足跡を残しました。徹底した写実と大胆な装飾性、そして象徴的な表現を融合させた彼の作品は、多くの美術家に影響を与え、現在でも高い評価を受けています。山種美術館には、御舟の作品約120点が所蔵されており、彼の画業を深く知ることができる貴重な場所となっています。

彼の作品は、日本の近代美術史における重要な位置を占めており、これからも多くの人々に感動とインスピレーションを与え続けることでしょう。

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