逢坂 (大阪市)

逢坂（おうさか）

大阪市に位置する逢坂は、単に特定の場所を示すだけでなく、二つの異なる要素を内包しています。一つは古くから交通の要衝であった歴史的な「坂」であり、もう一つは近代以降に定められた行政上の「町名」です。字は異なりますが、いずれも「おうさか」と読み、密接に関連しています。

坂としての逢坂

道路としての逢坂は、大阪市中央区から奈良県へと続く国道25号線の一部であり、かつての竜田越奈良街道にあたる上町台地の西側斜面に位置しています。具体的には、現在の国道25号が谷町筋と交差する四天王寺前交差点から、松屋町筋との交点である公園北口交差点に至る間の区間を指します。この坂は、大阪市天王寺区にある七つの有名な坂、いわゆる天王寺七坂の一つに数えられ、その中でも最も南側に位置しています。上町台地から西へ下る地形を活かした坂道であり、古来より交通の要衝として重要な役割を果たしてきました。

歴史と名称の由来

逢坂の歴史は古く、その名称の由来についてはいくつかの説が伝えられています。一つは、かつて近江国（現在の滋賀県）と山城国（現在の京都府）の国境にあった有名な逢坂関に由来するという説です。もう一つは、飛鳥時代に聖徳太子が物部守屋との間で仏法について議論を重ねたという「合法四会（ごうほうしかい）」の故事にちなむという説です。また、古い文献などでは「合坂」や「相坂」と表記されることもあり、これらの表記からも人や物が行き交い、出会う場所であったことがうかがえます。

逢坂の坂下にあたる現在の公園北口交差点周辺は、古くから「合邦ヶ辻（がっぽうがつじ）」と呼ばれていました。この地名は、後に人形浄瑠璃や歌舞伎の演目として知られる『摂州合邦辻（せっしゅうがっぽうがつじ）』の舞台となったことでも有名です。物語は人々の悲喜こもごもを描き、この地が持つ歴史的な背景や情感と結びついて語り継がれています。

近代以前の逢坂は、現在の姿からは想像もつかないほど急な坂でした。馬車や荷車を引く馬が音を上げるほどの勾配があり、道幅も狭かったため、人々の通行には大変な苦労が伴い、しばしば事故が発生する危険な場所でした。この難所を改修しようという動きが起こったのは明治時代に入ってからです。明治9年（1876年）、茶臼山観音寺の住職であった静明（じょうみょう）という人物が、地域の人々からの寄付を募り、私財も投じて坂を切り崩し、勾配を緩やかにする工事を行いました。この静明の功績は大きく、地域の人々に感謝され、彼の偉業を称える石碑が現在もその地に残されています。

さらに時代が進み、明治42年（1909年）には、大阪市電西道頓堀天王寺線の敷設工事が行われました。これに伴って逢坂の道路も大規模に拡幅整備され、現在の道路の姿へと大きく近づきました。かつての険しい難所は、近代的な交通路へと生まれ変わったのです。

町名としての逢阪

一方、行政上の町名としての「逢阪（おうさか）」は、坂の字とは異なり、こざとへんに「阪」の字を使用します。現在の天王寺区逢阪一丁目および逢阪二丁目という町名は、昭和56年（1981年）に行われた町名変更によって定められました。この町は、坂道である国道25号線を境にして、北側が一丁目、南側が二丁目となっています。町域の範囲は、東側が谷町筋、西側が松屋町筋までのおよそ一帯を占めています。

この地域はもともと、近代の大阪市に編入される前は東成郡天王寺村の一部でした。明治30年（1897年）に大阪市へと編入された後、明治33年（1900年）には現在の町名の基礎となる逢阪上之町（おうさかかみのちょう）と逢阪下之町（おうさかしたのちょう）が起立しました。現在の天王寺区逢阪（一丁目、二丁目）は、おおむねこの逢阪上之町の範囲に相当します。一方、逢阪下之町の範囲は、その後の区画整理や町名変更を経て、現在の天王寺区茶臼山町の一部や、浪速区の下寺（したでら）、日本橋東（にっぽんばしひがし）といった複数の町域の一部となっています。

このように、逢坂（おうさか）という名称は、歴史的な坂道としての顔と、現在の行政区域としての顔という、二つの側面を持っています。それぞれが地域の歴史と文化を物語っており、天王寺という地の多様な魅力の一端を担っています。周辺には安居神社、一心寺、茶臼山観音寺など、歴史的な寺社や施設が点在しており、古都大阪の面影を今に伝えています。

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