天王寺村

天王寺村の概要

天王寺村は、かつて大阪府東成郡に存在した村で、現在の大阪市天王寺区の南東部、阿倍野区の北西部、生野区の一部（桃谷）、浪速区の東部（日東地区）、西成区の東部（山王・天下茶屋）に相当する広大な地域をカバーしていました。この村は、江戸時代に四天王寺の門前町として発展した7つの集落、すなわち北、上之宮、小儀、久保、土塔、河堀、堀越が統合されて誕生しました。村内には幕府領と四天王寺領が混在していました。

村の南部には阿倍王子神社があり、その周辺の阿部野集落は、大坂の陣の影響で一時無人化しましたが、元和偃武後に徐々に復興し、1618年には天王寺村の新家とされました。その後、1663年には阿部野村として分離しています。一方で、天明・寛政年間には、西成郡勝間村から勝間新家（通称：天下茶屋）が天王寺村に編入され、幕末期には人口1万人に迫る大村に成長しました。

天王寺村の変遷

1889年の町村制施行に伴い、天王寺村は東成郡阿部野村を編入し、天王寺と阿部野の2つの大字を編成しました。1897年4月1日には、大阪市の第一次市域拡張により、大阪鉄道（現在の関西本線・大阪環状線）の線路より北側の地域が大阪市に編入されました。この時、大阪市に編入された地域は南区に属し、後に天王寺区（一部は浪速区）となりました。また、第一次市域拡張の際、大阪鉄道の線路より東側に飛び地状の地域ができたため、その地域は東成郡鶴橋村に編入されました。

第一次市域拡張の際に大阪市へ編入された地域では、1900年に41の町が新たに設置されました。一方、大阪鉄道の線路より南側の地域は、東成郡天王寺村として存続しました。村役場は天王寺村大字阿部野字南坂田（現在の大阪市阿倍野区晴明通、大阪市立晴明丘小学校敷地）に置かれました。1897年の村分割により人口は一時的に激減しましたが、その後宅地化が進み、1920年代には人口5万人を超える巨大な村に成長しました。

1925年には大阪市の第二次市域拡張が行われ、天王寺村の全域が大阪市に編入され、その歴史に幕を閉じました。1925年に編入された旧天王寺村の地域は住吉区に属し、後に阿倍野区（一部は西成区）に分割されました。

天王寺村の行政

天王寺村の村政を担った庄屋、戸長、村長は以下の通りです。

庄屋（天保年間以降）

大浦五兵衛
青木孫二郎
青木九兵衛
柴谷利助
井川惣左衛門
松本藤兵衛
関根龍蔵
田中九左衛門
青山太平
村上幸助

戸長

秋田幸明
橘富三郎
橘左兵衛
青山太平
村上幸助
田中九左衛門
井上治郎右衛門
笹本五郎石郎
栗谷六兵衛
浦野藤兵衛門
篠川利祐（1884年7月退任）
橋本善右衛門（1886年11月就任、1889年3月退任）
和田伊助
見野八三郎
西浦又兵衛
赤田瑳一

村長

橋本善右衛門（1889年6月13日就任、退職年月日不明）
高見忠治郎（1892年6月8日就任、退職年月日不明）
赤田瑳一（1893年12月5日就任、退職年月日不明）
芽木小兵衛（1897年7月31日就任、1899年11月20日退職）
後藤満壽長（1900年4月9日就任、1904年4月8日退職）
道野源七（1904年4月18日就任、1912年4月17日退職）
増田忠三郎（1912年4月就任、1915年5月15日退職）
柴谷伊之助（1915年7月23日就任、1920年11月16日退職）
泉岡宗助（1920年12月24日就任）

天王寺村の経済

産業

農業が盛んで、『大日本篤農家名鑑』によると、貴田、杉田、田中、井上、柴谷、宗像、清水、道野、増田姓の篤農家がいたことが記されています。

企業

村内には以下の企業が存在しました。

柴谷土地建物（1917年8月設立、土地建物所有賃貸）
阪南土地建物（1916年8月設立）
東洋硝子貿易（1919年6月設立）

天王寺村の交通

村の西端には紀州街道が通り、今宮町を経て天王寺村の西端を南下し、玉出町へと続いていました。また、四天王寺前から庚申街道が村を南下し、途中で南東に向きを変えて田辺町・平野郷町方面へと伸びていました。鉄道の便としては、南海鉄道上町線、南海鉄道平野線が村内を通り、村の西端を南海鉄道阪堺線が、北西端を南海天王寺支線が、東部を大阪鉄道（現在の近鉄南大阪線）が走っていました。関西鉄道（現在の関西本線、大阪環状線）は村内を通っていましたが、1897年の村分割以降は村の北端を走り、村と大阪市との境界となりました。

天王寺村の教育

中等・高等教育

天王寺村には多くの中等・高等教育機関が設置されていました。

大阪高等学校（1921年、現在の阿倍野区王子町4丁目）
自由メソジスト神学校（1923年、現在の阿倍野区丸山通）
大阪府立天王寺中学校（現在の大阪府立天王寺高等学校）
大阪府立阿部野高等女学校（現在の大阪府立阿倍野高等学校）
大阪市立工芸学校（現在の大阪府立工芸高等学校）
明浄高等女学校（現在の明浄学院高等学校）
大阪道修薬学校（1920年から1924年、現在の大阪薬科大学の前身）
私立天王寺高等女学校（現在の四天王寺中学校・高等学校）

初等教育

初等教育機関としては、明治時代初期に天王寺、天下茶屋、阿部野の小学校が設立されました。これらの学校は一時合併しましたが、後に再独立しています。1897年の村分割により、天王寺尋常小学校は大阪市に移管され、大阪市立天王寺小学校と大阪市立大江小学校に分離しました。村分割後の天王寺村には、天下茶屋尋常小学校と阿部野尋常小学校が残りました。1901年、両校は合併し、天王寺尋常小学校（現在の大阪市立晴明丘小学校）が設立されました。その後、人口増加に伴い、天王寺第二尋常小学校（大阪市立常盤小学校）、天王寺第三尋常小学校（大阪市立丸山小学校）、天王寺第四尋常小学校（大阪市立天下茶屋小学校）、天王寺第五尋常小学校（大阪市立金塚小学校）、天王寺第六尋常小学校（大阪市立阿倍野小学校）が相次いで開校しました。

天王寺村のゆかりの人物

赤田瑳一（衆議院議員）
田中絹代（女優）
見野文次郎（金融業、家主、大阪府多額納税者、大阪市会議員）
三宅熊五郎（いろは精肉商、製々舎窯業土地、南海土地建物各取締役）

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