進駐軍競馬

進駐軍競馬：戦後北海道を駆け抜けた闇の競走

1945年8月、太平洋戦争の終結後、混乱の続く日本に駐留したアメリカ軍。その存在感は社会のあらゆる面に影響を与えましたが、北海道では異色のイベントが誕生しました。1946年7月から12月にかけて開催された「進駐軍競馬」です。アメリカ軍の主導によって行われたこの競馬は、戦後の闇市経済を反映した「闇競馬」であり、時に「GI競馬」とも呼ばれていました。

始まりと終わり：独立記念日と地方競馬法

進駐軍競馬の発端は、北海道に駐留していたアメリカ軍第11空挺師団によるアメリカ独立記念日の祝典企画でした。アメリカ軍は北海道側に競馬開催の準備を指示。北海道は北海道馬匹組合連合会を主催者とし、関係者への働きかけを通じて、競馬開催に必要な施設、競走馬、騎手、調教師などを確保しました。

こうして1946年7月4日、札幌競馬場で第1回進駐軍競馬が開幕。その後、岩見沢競馬場、室蘭競馬場、函館競馬場などでも開催され、同年12月までに計12回ものレースが繰り広げられました。しかし、この賑やかな競馬は長くは続きませんでした。1946年11月20日、地方競馬法が制定されたのです。この法律は進駐軍競馬の開催を事実上禁止するものであり、同法の施行により進駐軍競馬は幕を閉じました。わずか半年足らずの短い期間でしたが、戦後日本の社会状況を映し出す象徴的な出来事でした。

競走の内容：サラブレッドからばん馬まで

進駐軍競馬の主催者は、第1回が北海道馬匹組合連合会、第2回以降は北海道レースクラブでした。騎手や調教師には、かつて公認競馬や地方競馬に関わっていた人々のほか、アメリカ軍兵士も参加していたと記録されています。

競走馬は、サラブレッド系種、アラブ系種、アングロノルマン系種、そして北海道の固有品種である道産子とその混血種など、多様な馬たちが競走に挑みました。競走の種類も平地競走、速歩競走、そして北海道らしいばん馬競走と、多様な競走が実施されました。馬券の発売も行われ、開催当初は売上も好調であったと伝えられています。

進駐軍競馬が示すもの

進駐軍競馬は、単なる競馬イベントではありませんでした。戦後の混乱期、アメリカ軍の強い影響力、そして復興への歩みの中で生まれた、複雑な歴史の断片です。闇市経済の一端を垣間見ることができ、戦後日本の社会状況や、アメリカ軍と日本社会との関わりを考える上で重要な事例と言えるでしょう。また、競馬そのものも、人々の娯楽や経済活動を支える側面を改めて認識させてくれます。このイベントを通して、私たちは戦後日本の複雑な歴史と、その中で人々がどのように生きていたのかを理解することができます。 闇競馬という側面だけでなく、北海道の競馬文化、そして日米関係の特異な一面を知る上で、進駐軍競馬は貴重な研究対象と言えるでしょう。

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