遊び (映画)

1971年、大映の遺作『遊び』：青春と絶望の逃避行

1971年公開の日本映画『遊び』は、増村保造監督が手掛けた大映最後の作品であり、その製作現場は、倒産寸前という大映の窮状を反映するかのように、資金繰りの困難に直面していたと言われています。原作は野坂昭如の短編小説『心中弁天島』で、青春ドラマという枠組みの中に、社会の闇と人間の業が凝縮された、重層的な物語となっています。カラー、スコープサイズという、当時の映画技術を駆使した映像表現も特徴です。

物語：過酷な現実からの脱出

物語の中心となるのは、工場で働く16歳の少女と、19歳の少年です。少女は、工場の社員寮で暮らし、実家に仕送りをする厳しい生活を送っています。ある日、母親からさらなる金銭を無心された少女は、かつての同僚がホステスをしているキャバレーで働くことを考えます。

しかし、キャバレーの電話番号が分からずに途方に暮れていた少女に声をかけたのが、少年でした。少年は少女を喫茶店に誘い、明るい会話で少女の心を解きほぐします。その後、映画館へと足を運び、少女は初めての男性とのデートに胸を躍らせ、少年に惹かれていきます。

少年は少女に「いい仕事」を紹介すると告げ、少女をキャバレーから遠ざけ、自身の行きつけのバーへと連れて行きます。そこで初めて酒を飲んだ少女は、気分が良くなりますが、その裏には、少年の恐るべき計画が隠されていました。実は少年は、ヤクザ組織の舎弟であり、少女を夜の街で働かせるつもりだったのです。

少年は組織のボスから、少女を「遊ばせた後、21時に旅館に連れて来い」と命令を受けます。ボスの目的は、少女を脅迫して風俗店に売ることでした。しかし、ディスコで少女と時間を過ごし、共に踊るうちに、少年は少女に本物の愛情を抱き始めます。

少女がヤキモチを焼き、店を出てしまったことで、少年の計画は狂います。少女を探し出し、愛を確かめ合った二人は、ボスの命令を無視して、旅館を抜け出します。タクシーに乗り込み、逃亡の途中で少年は「最後に贅沢をしたい」と言い出し、二人は豪華な旅館で食事を共にし、一夜を過ごします。

少女は、実家と仕事全てを捨て、少年と共に生きることを決意します。翌朝、二人は旅館を飛び出し、どこまでも続く川を小舟で下っていくのです。

昭和の時代背景と登場人物

この映画は、昭和の高度経済成長期における貧困や格差、そしてヤクザ組織の暗躍といった社会問題を背景に描かれています。少女の家庭環境は貧しく、父親は飲酒運転事故を起こし、母親は娘から金を無心するなど、社会の底辺に生きる人々の姿が克明に描かれています。

少年は、母子家庭で育ち、ヤクザの世界に身を投じるという、複雑な境遇にあります。その他登場人物も、それぞれが社会の片隅で懸命に生きている姿が描かれており、当時の日本の社会状況を反映した作品となっています。

スタッフ・キャスト

監督：増村保造、原作：野坂昭如、そして関根恵子、大門正明ら、実力派俳優陣の演技も光る作品です。増村監督の演出手腕と、俳優たちの熱演によって、この映画は、単なる青春ドラマの枠を超えた、人間の業と社会の闇を深くえぐる作品となっています。

映画史における意義

『遊び』は大映の倒産という時代背景の中で制作された、いわば遺作とも言える作品です。そのため、製作現場の困難さや、昭和の社会問題が作品に反映されていると解釈することもできます。青春ドラマとしての側面を持ちつつも、社会派作品としての側面も持ち合わせ、日本の映画史において重要な位置を占める作品と言えるでしょう。また、カラーとスコープサイズという、当時の映画技術もふんだんに使われています。

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