過敏性肺炎

過敏性肺炎：有機粉塵が引き起こすアレルギー性疾患

過敏性肺炎とは、カビや鳥の糞、化学物質などの有機粉塵を繰り返し吸入することで発症する肺炎です。ウイルスや細菌などの病原体が原因ではなく、体内に侵入した抗原物質に対するアレルギー反応が、肺の気管支や間質に炎症を引き起こすアレルギー性疾患です。

発症メカニズムと種類

有機粉塵や化学物質などの抗原物質が体内に侵入すると、III型およびIV型アレルギー反応が誘発されます。このアレルギー反応によって肺に炎症が起こり、長期間にわたって繰り返されると、肺組織が線維化し硬くなってしまう慢性過敏性肺炎へと進行します。

過敏性肺炎は、特定の環境に関連して発症することが特徴です。そのため、家族内で複数人が発症するケースも多く見られますが、個人差も大きく、白血球の遺伝子型などが影響していると考えられています。喘息や季節性アレルギーとは異なる疾患です。

過敏性肺炎は、その原因となる抗原物質によって様々な呼び名を持っています。例えば、鳥を飼っている人が発症する場合は「鳥飼病」、農作業に従事する人が発症する場合は「農夫肺」などと呼ばれます。その他にも、「愛鳥家肺」、「ワイン生産者肺」、「塗装工肺」、「加湿器肺」、「きのこ栽培者肺」など、職業や原因物質に関連した名称が用いられることがあります。

主な原因物質

現在までに300種類以上の原因物質が特定されており、その多くはカビなどの真菌類やペット由来の有機粉塵です。その他にも、塗料、ウレタンフォーム、農薬なども原因となることが知られています。

日本で最も多いのは夏型過敏性肺炎で、トリコスポロン属のカビが原因抗原となります。これは、夏期（4月から10月）に高温多湿な住宅環境で発症することが多く、夏風邪と誤診されるケースも多いです。

原因物質となるカビは、清掃が不十分なエアコン、温水浴槽、加湿器、室内の植木鉢などに発生することがあります。また、鳥類の糞や羽毛、畜産用乾燥飼料、キノコ胞子、農薬、動物毛皮の塵埃なども原因となります。特に、鳥関連過敏性肺炎は、鳥を飼育している場合だけでなく、近隣の野鳥や、羽毛製品（ダウンジャケット、羽毛布団など）からも発症する可能性があります。

化学物質では、イソシアネートが原因となるケースがあります。

病型と症状

過敏性肺炎は、発症の経過によって急性型、亜急性型、慢性型の3つの病型に分類されます。

急性型: 高濃度の抗原を吸入することで、曝露後4～8時間程度で発熱、悪寒、咳嗽、胸痛、呼吸困難などの症状が現れます。食欲不振、吐き気、嘔吐を伴うこともあります。抗原から離れると症状は急速に改善します。
亜急性型: 急性型と慢性型の症状が混在します。数日から数週間、咳嗽、呼吸困難、疲労感、食欲不振などが続きます。
* 慢性型: 低濃度の抗原への長期間（数カ月から数年）の曝露によって発症します。炎症が慢性化し、肺が硬くなる（線維化）ことで、労作時呼吸困難、湿性咳嗽、疲労感、体重減少などが数カ月から数年かけて徐々に現れます。慢性過敏性肺炎は、特発性間質性肺炎（IIP）、特発性肺線維症（IPF）、非特異性間質性肺炎（NSIP）と類似した症状を示し、予後不良でCOPDに進行することもあります。抗原から離れても症状は改善しません。

診断

過敏性肺炎の診断は、患者さんの住居環境や職業歴、胸部X線写真や高分解能CT(HRCT)画像、肺機能検査、気管支肺胞洗浄、組織学的検査、血清学的検査、環境誘発試験などの結果を総合的に判断して行われます。急性型では、胸部X線写真に両肺びまん性の粒状影やすりガラス陰影が見られます。慢性型では、線状網状影や肺の萎縮が見られます。夏型過敏性肺炎では、抗トリコスポロン・アサヒ抗体検査が有用です。

治療

過敏性肺炎の治療法としては、原因となる抗原を回避することが最も重要です。急性型や亜急性型では、炎症を抑えるためのステロイド剤などが使用される場合がありますが、予後への影響については議論があります。慢性型では、症状の進行を遅らせるための治療が行われますが、根本的な治療法は確立されていません。

合併症

過敏性肺炎の合併症として、肺高血圧や肺がんなどが挙げられます。

歴史

過敏性肺炎は、1920年代に英国で農夫肺として報告されたのが最初です。その後、免疫学的な研究が進み、アレルギー性疾患であることが明らかとなり、1960年代には日本でもさとうきび肺、農夫肺、鳥飼病などが報告されました。1970年代後半には夏型過敏性肺炎が日本で注目を集め、1990年代には慢性型過敏性肺炎に関する調査も行われています。

最後に

過敏性肺炎は、早期発見と原因物質からの回避が重要な疾患です。原因物質となる有機粉塵への曝露を避けること、そして、症状が現れた場合は速やかに医療機関を受診することが重要です。

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