道成寺 (能)

能楽『道成寺』の魅力

『道成寺』は、紀州道成寺に伝わる安珍・清姫伝説に基づいて作られた能楽の一つです。この作品は、観世小次郎信光によって作られた『鐘巻』の要素を再構成し、特に乱拍子に焦点を当てています。伝説の後日譚として描かれるこの能は、後に歌舞伎や浄瑠璃、琉球組踊など、多くの演目に影響を与えることになりました。

登場人物

『道成寺』には、シテ（主役）としての白拍子（実は女の怨霊）、ワキ（脇役）としての住僧、ワキツレ（ワキの従僧）、間狂言（狂言を行う二人）が登場します。物語の中心に位置する白拍子が鐘供養の場に赴き、そこで起きる一連の出来事が展開されます。

ストーリー概要

物語は、白拍子が紀州道成寺の鐘供養の場を訪れたことから始まります。この場は本来女人禁制であったにもかかわらず、白拍子は舞を舞い、歌を歌います。そして隙を見て、梵鐘の中に飛び込みます。すると間もなく鐘が落ち、善行によって持ち上がった鐘の中から現れたのは、白拍子が蛇の姿に変わったものです。この蛇は、男に捨てられた怒りを抱えており、激しい暴走を見せます。しかし、僧侶の熱心な祈りにより、最終的に川に飛び込み姿を消します。

独特な表現

この能の魅力は、乱拍子と呼ばれる神経戦にあります。小鼓との間で調和を取りながら進む中、展開される大きな間が非常に印象的です。特に、シテが鐘に飛び込む瞬間や、その後の鐘の落下のタイミングは、観客を引き込む重要なシーンとなります。また、シテが鐘の中で装束を替え、後ジテとして現れる場面は、観客に強い印象を与えます。

装束や演技

装束

• - 前シテ: 白地に鱗模様をあしらった着物や鬼扇を持ち、独特の美しさを醸し出します。特に、長鬘や鬘帯は白拍子の幻想的な役割にふさわしいものです。
• - 後シテ: 鐘から姿を現す際には、折壺にした唐織物を身にまとい、独特の存在感を示します。
• - ワキと従僧: 仏教的な装束を身にまとい、役柄に応じた適切な持ち物を抱えています。

面

• - 前シテ: 近江女や白曲見の面を使用し、普通の女性の顔貌を表現しています。
• - 後シテ: 般若の面をつけ、より強い存在感を演出します。

まとめ

能楽『道成寺』は、物語の深みや舞台の演出が織り交ぜられた、視覚と聴覚の両方で楽しむことができる作品です。その神秘的なストーリーに触れながら、観客は日本の伝説と文化の一端を味わうことができるのです。能楽はその形態だけでなく、そこに込められた物語や感情にも大きな魅力があります。

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