道標ない旅

永井龍雲の通算5枚目のシングルとして、『道標ない旅』（しるべないたび）は1979年8月21日にキャニオン・レコードより発売されました。規格品番はF-243です。このシングルには、表題曲の「道標ない旅」とB面曲の「素面酒」（しらふざけ）が収録されています。

表題曲「道標ない旅」は、青春時代を力強く駆け抜ける心情をストレートに表現した楽曲です。この曲は、当時のグリコアーモンドチョコレートのテレビコマーシャルに起用されたことで大きな注目を集めました。また、人気学園ドラマシリーズであるTBS系の『3年B組金八先生』でも挿入歌として使用されています。

タイトルの読み方には、発売にあたって変更された経緯があります。当初、永井龍雲が考えていた原題は「標ない旅」でした。しかし、漢字一文字では意味が曖昧になることを避けるため、「道標」という言葉を用いて「しるべ」と読ませる現在のタイトルに改められたと言われています。

グリコアーモンドチョコレートのCMソングとしては、「道標ない旅」が採用される前に、永井龍雲の楽曲「蒼穹（そうきゅう）」も候補として提出されていました。この「蒼穹」は、後にアルバム『暖寒』に収録されますが、比較的落ち着いた雰囲気の曲であったため、CMのイメージには合わないと判断され採用には至りませんでした。当時のグリコのCMソングは、松崎しげるの「愛のメモリー」や松山千春の「季節の中で」といった、いずれも大ヒットを記録した楽曲が使用されており、「道標ない旅」は松山千春の「季節の中で」に続く楽曲として選ばれたのです。発売が開始されると、期待通りに注目度が高まり、音楽チャートでも順調に順位を上げていき、ベスト20入りを目前とする位置まで到達しました。

しかし、この曲のヒットを後押ししていた状況は、思わぬ出来事によって急変します。この時期、以前グリコのCMに出演していた女優の山口百恵さんが、1979年10月に開催された自身のコンサートで、俳優の三浦友和さんとの交際を公表したのです。芸能界のトップスター同士のロマンスの発覚は瞬く間に大きな話題となり、マスコミはこぞって特集を組み、国民の関心は二人に集中しました。この事態を受けて、グリコのCMも、かつて山口百恵さんと三浦友和さんが共演した際の映像に差し替えられることとなりました。これにより、当初は2クール（約半年間）の放送が予定されていた「道標ない旅」を使用したCMは、わずか1クール（約3ヶ月間）で終了を余儀なくされたのです。まさにヒットの勢いが加速しようとしていた最中でのCM打ち切りは、関係者にとって大きな痛手となりました。永井の所属事務所や、キャニオン・レコードの宣伝担当だった丸山寿敏氏は、この突然の打ち切りに強い無念さを感じ、「非常に残念であり、やり場のない怒りをどこに向けたらよいのか分からなかった」とその胸中を語っています。

一方、シングルのB面に収録された「素面酒」は、俳優としても知られる根津甚八さんがコンサートでカバーしています。このカバー音源は、根津甚八さんのライブ・アルバム『ファーストコンサート』に収録されています。

最終的に「道標ない旅」は、オリコンチャートで週間最高21位を記録し、累計でおよそ13.5万枚のセールスを達成しました。永井龍雲の初期キャリアにおける代表曲の一つとして記憶されていますが、CM放送が短縮されたという不運な背景から、もし予定通り放送が続いていれば、さらに大きなヒットとなった可能性も指摘される楽曲です。

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