遠山茂樹 (日本史家)

遠山茂樹：近代日本史研究の巨匠とその時代

遠山茂樹（1914-2011）は、20世紀日本の歴史学界を代表する歴史学者の一人です。日本近代史、特に明治維新や自由民権運動、そして東アジア史を専門とし、その研究は幅広い分野に影響を与えました。緻密な史料分析に基づいた独自の視点と、歴史教育への深い関与は、多くの研究者や学生に多大な影響を与え、今日に至るまで高く評価されています。

学者としての歩み

東京生まれの遠山は、東京帝国大学国史学科を卒業後、文部省維新史料編纂事務局や東京帝国大学史料編纂所に勤務。戦後は東京大学教職員組合委員長を務めるなど、教育者・研究者として活躍しました。その後、横浜市立大学教授、専修大学教授を歴任し、横浜開港資料館初代館長も務めました。

昭和史論争と『昭和史』

遠山茂樹の名前を歴史学研究の枠を超えて広く知らしめたのは、今井清一、藤原彰との共著『昭和史』（岩波新書、1955年）でしょう。この本は、戦後間もない時期に発表され、たちまちベストセラーとなりました。20代の若者を中心に多くの読者を得て、当時の社会状況を反映した大きな反響を呼びました。

『昭和史』は、日本の近代史、特に昭和時代を政治、経済、外交の諸側面から多角的に分析し、戦争への道程や国民の経験を詳細に記述しました。しかし、その記述内容を巡り、亀井勝一郎、松田道雄らとの間で激しい論争が巻き起こりました。

この「昭和史論争」は、歴史記述における客観性と主観性の問題、歴史家の役割、そして歴史教育のあり方など、多くの重要な問題点を浮き彫りにしました。遠山は、唯物史観の立場から歴史を科学的に分析する必要性を主張する一方で、イデオロギーを押し付ける歴史教育には批判的でした。彼は、史料に基づいた客観的な記述を重視しながらも、国民の生活感覚や経験を歴史理解に活かすことの重要性を訴え続けました。

教育者としての姿勢

遠山は、歴史学者としてだけでなく、熱心な教育者としても知られていました。横浜市立大学では多くの学生を指導し、名物教授として親しまれました。彼は、歴史を単に暗記する科目ではなく、考え、批判的に検討する学問であると考えていました。歴史教育においては、常に新しい視点を取り入れ、学生たちの自主的な学習を促すことに尽力しました。

多岐にわたる研究業績

遠山茂樹の研究は、明治維新史、自由民権運動、東アジア史など多岐にわたります。彼は、日本の近代化過程を多角的に分析し、西洋文明との接触、天皇制、帝国主義など、複雑な歴史的要因を丁寧に解き明かしました。また、「脱亜論」に関する先駆的な研究でも知られています。

膨大な著作を残した遠山茂樹は、97歳で逝去しました。没後も、その業績は高く評価されており、その学問的影響は現代の歴史学研究や歴史教育に大きな足跡を残しています。彼の功績は、単なる歴史学の枠を超えて、現代社会を考える上で重要な示唆を与え続けていると言えるでしょう。

主要著書

平和を求めた人々
明治維新
戦後の歴史学と歴史意識
明治維新と現代
福沢諭吉 思想と政治との関連
日本近代史 1
歴史学から歴史教育へ
自由民権と現代
明治維新と天皇
遠山茂樹著作集（全9巻）

共編著

尊攘思想と絶対主義
昭和史
近代日本政治史必携
ポポロ事件 黒い手帳は語る
山川浩「京都守護職始末」校注解説
家永日本史の検定 歴史学者は批判する
明治国家の権力と思想
教科書検定の思想と歴史教育 歴史家は証言する
教科書裁判・日本史の争点 歴史家は証言する
近代天皇制の研究 1・2
* 服部之総・人と学問

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