遥任

遥任（ようにん）について

遥任とは、奈良時代から平安時代にかけての日本において、国司が自ら任国に赴かずにその職務を遂行する制度を指します。このような状況では、国司の代理として目代（もくだい）と呼ばれる人物が任国に派遣され、租税の徴収や行政の執行を行いました。遥任は「遥授」とも呼ばれることがあります。

歴史的背景

遥任が初めて行われたのは奈良時代ですが、その頻度はごく低かったのです。この時期は、律令制のもとで国司が現地で統治を行うことが求められていました。国司は地元の支配を確立し、律令制度を機能させるために赴任が欠かせなかったのです。

しかし、平安時代に入ると状況は変わります。特に弘仁年間には、職封が低い参議に対して国守との兼務や遥任が認められることが慣習として定着しました。この制度のもとでは、特定の国に親王が任命される「親王任国」が創設され、親王が実際に赴任することはほとんどなくなりました。これは、朝廷が遥任を公的に認める契機となりました。

9世紀から10世紀にかけては、有力な農民層である富豪が各地で勢力を築き、国司が戸籍や班田による支配を維持することが難しくなりました。このため、国司は公田を名田という単位に再編成し、有力農民に租税の徴収を委託していくこととなりました。このような新しい支配体制は、名体制や王朝体制として知られています。

このようなシステムが確立されると、国司に広範な権限が付与され、徴税や軍事を請け負う現実が出現します。これが「国司請負制」とも呼ばれる体制です。国司たちは現地の有力者を取り立てたり、目代を派遣したりして、より効率的に地方経営を行うようになりました。この結果、国司が任国に赴任しない事例が増加し、遥任が定着していったのです。

913年には、醍醐天皇が遥任国司に対する制限を設ける法令を発布しましたが、その効果は限定的でした。平安中期になると、遥任は非常に一般的な形態となりました。任地に赴任した国司の中で最高責任者は「受領」と呼ばれるようになりました。しかし、実際には国守が現地に在住しないことが多く、受領の職が国司の最高職と見なされ続けました。

遥任の常態化

その後、室町時代に至るまで、国司の遥任は恒常的なものとなり、現地に赴任することなく職務を行う事例が一般化しました。こうした背景をもって、遥任は日本の地方行政における重要な側面となり、国司制度の運用に大きな影響を与えました。

まとめ

遥任制度は、律令制の変容や地方の領主層の力の変化を反映した制度であり、国司が地域を統治する方法を根本的に変えました。この制度の理解は、平安時代の日本社会の構造を知る上で非常に重要です。

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