適正農業規範

適正農業規範（GAP）とは

適正農業規範（Good Agricultural Practices：GAP）とは、農業生産において、食品の安全性確保、環境への負荷低減、労働者の安全確保などを目的として、実施すべき手法や手順をまとめた規範です。日本語では「農業生産工程管理」とも訳されます。

従来の農業生産現場では、出来上がった農産物を検査する「結果管理」が主流でした。しかし、この方法では、問題が発生した際に原因を特定しにくく、また、多額の検査費用がかかるという問題点がありました。

GAPでは、問題発生を未然に防ぐための「工程管理」が重視されます。これは、あらかじめ問題が発生する可能性のある要因を特定し、その対策を講じるという方法です。これにより、低コストで柔軟性の高い危機管理が可能となります。

GAPは、各生産段階ごとに具体的なステップが定められていますが、最終的な運用方法の決定は生産者に委ねられています。これは、高品質な農産物の生産だけでなく、生産現場の状況に合わせて柔軟に対応できることを目指しているためです。

GAPの重要性

近年、農業を取り巻く環境は大きく変化しています。世界的な貿易の拡大、食の安全に対する意識の高まり、環境問題への関心の高まりなど、様々な要因がGAPの必要性を高めています。

GAPを導入することで、次のようなメリットが得られます。

食品の安全性の向上
環境負荷の低減
労働者の安全確保
農産物の品質向上
ブランドイメージの向上
国際的な競争力の強化

GAPの原則

国際連合食糧農業機関（FAO）が提唱するGAPの原則は、次の4つです。

1. 利益的にも効率的にも充分な収穫量を実現し、安全で栄養価も高い作物をつくる。
2. 豊かな自然資源の更なる強化と維持に努める。
3. 持続可能な農業を通して、持続可能な開発と労働者の生計を確立させる。
4. 社会の文化的・社会的な需要に見合った農業を行う。

これらの原則に基づき、土壌、水、動物の福祉、健康管理など、様々な側面からGAPの具体的な取り組みが定められています。

土壌に関連したGAPの例

風や水による土壌の浸食を軽減する
肥料の適切な時期と量を守って使用する
有機肥料の使用や輪作などにより、土壌の肥沃度を保つ
土壌の過度な利用を避ける

水に関連したGAPの例

計画的な灌漑を行い、土壌の水分不足を防ぐ
水の循環を促し、塩害を防止する
水や肥料の表面流出を防ぐ
水を厳重に管理し、過剰な使用を抑制する

動物の活動や動物の健康福祉に関連したGAPの例

動物の生命活動を尊重する
治療目的以外ではなるべく動物を傷つけない
環境や健康に悪影響を与える行為を避ける
化学製品や医療製品が食物連鎖に影響を与えないように注意する
抗生物質やホルモンの使用を極力避ける
動物の排泄物による汚染を防ぐ
生きた動物の輸送を最小限に止める

各国のGAP

GAPは、各国や各地域で独自の基準が設けられています。

日本：JGAP（Japan Good Agricultural Practice）が普及しています。JGAPは、日本GAP協会が運営する農場審査・認証制度で、食品安全、環境保全、労働安全、人権保護などの観点から、農場の管理体制を評価します。近年は国際的な認証制度であるGFSI（Global Food Safety Initiative、世界食品安全イニシアチブ）への対応も進めており、グローバルな標準としての地位を確立しつつあります。
ヨーロッパ：グローバルGAP（GLOBALGAP）が事実上の世界基準となっています。グローバルGAPは、ヨーロッパの小売業者が中心となって設立した農場認証制度で、食品安全、環境保全、労働安全、動物福祉などの観点から、農場の管理体制を評価します。グローバルGAPは、世界中の多くの国で採用されており、国際的な取引において重要な役割を果たしています。
アメリカ：GAP/GHPプログラム（GAP/GHP Program）が存在します。これは、アメリカ合衆国農務省（USDA）が、農場がGAPおよび適正運用規範（GHP）を適用しているかを審査・認証する仕組みです。

まとめ

適正農業規範（GAP）は、持続可能な農業を実現するための重要な取り組みです。GAPを導入することで、食品の安全性の向上、環境負荷の低減、労働者の安全確保など、様々なメリットが得られます。今後、ますますGAPの重要性は高まっていくと考えられます。

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