遺骨収集事業

遺骨収集事業：戦没者の魂を故郷へ

遺骨収集事業は、第二次世界大戦で海外で亡くなった旧日本軍軍人、軍属、民間人の遺骨を収集し、日本へ帰還させることを目的とした、厚生労働省主導の慰霊事業です。この事業は、戦没者の尊厳を守り、遺族の悲しみを癒すために、長年にわたり続けられています。

事業の経緯

1952年のサンフランシスコ講和条約発効後、南方地域での遺骨収集が開始されました。初期には船舶を用いて主要な旧戦域を巡り、約1万2000柱の遺骨が収容されました。その後、一時中断されましたが、1967年に事業が再開されました。2016年には、戦没者の遺骨収集を国の責務とする法律が制定され、事業はさらに推進されることになりました。

これまでに、約34万柱の遺骨がこの事業によって収集されています。また、復員や引揚時に約93万2000柱の遺骨が送還されました。しかし、現在もなお約115万柱の遺骨が海外に放置されたままとなっており、その中には海没したとされる約30万柱も含まれています。

民間団体の協力

遺骨収集事業は、日本国戦死者遺体収容団、日本遺族会、JYMA日本青年遺骨収集団、空援隊、全国ソロモン会、東部ニューギニア戦友・遺族会といったNPOや民間団体との連携によって支えられています。これらの団体は、政府や厚生労働省と協力したり、独自に活動したりすることで、遺骨の捜索・収容に尽力しています。

空援隊によるフィリピンでの活動は、多くの遺骨を日本に帰還させた一方で、その収集方法が不適切であるとの指摘を受けました。委託事業で集められた遺骨の中に、日本人戦没者でないとみられる遺骨が多数含まれていたことが明らかになったことも問題視されました。その結果、厚生労働省は民間団体への委託を見直し、情報調査に限定し、現地の住民への対価支払いを禁止しました。また、遺骨送還前に厚生労働省職員を派遣し、確認を行うことが義務付けられました。さらに、千鳥ケ淵戦没者墓苑に納められていた約4000柱の遺骨が、日本兵以外の遺骨である可能性があるとして、同省内に移動されるという事態も発生しました。

ミャンマーでの収集活動

ミャンマーでは、1956年に1321柱の遺骨が収集されましたが、その後、社会主義政策を強めた政府の意向で遺骨収集のための入国が拒否されました。1975年に遺骨収集が再開されましたが、1976年には収集団が銃撃を受けるなど、自由な活動は困難な状況でした。

DNA鑑定の導入

アメリカでは、DNA鑑定を始めとする様々な方法によって、戦争での行方不明者を特定し、遺族に返す活動が行われています。日本においても、2003年からDNA鑑定が導入され、遺留品がある遺骨に限って、遺族との照合が開始されました。2017年からは、沖縄県、硫黄島、タラワ環礁に限定して、遺留品がない遺骨に対してもDNA鑑定が実施され、4柱の身元が特定されました。そして、2021年からは地域の限定をせず、遺族の要望に応じて照合を開始することになりました。

今後の課題

遺骨収集事業は、多くの成果を上げてきましたが、未だに多くの遺骨が海外に残されたままです。これらの遺骨を一つでも多く、故郷に帰すためには、政府、民間団体、そして国民一人ひとりの協力が不可欠です。また、DNA鑑定をはじめとする最新技術の導入や、収集活動における倫理的な問題への配慮も、今後ますます重要になります。

戦没者の尊厳を守り、遺族の悲しみを癒すために、遺骨収集事業はこれからも継続されます。

参考資料

厚生労働省：戦没者慰霊事業
追跡！AtoZ ： “疑惑の遺骨”を追え　～戦没者 遺骨収集の闇～
特定非営利活動法人 空援隊「検証！NHK」ページ
特定非営利活動法人 空援隊「メディア取材ページ」
* 厚生労働省「フィリピンでの遺骨帰還事業に関する検証報告書について」

もう一度検索