避弾経始

避弾経始（ひだんけいし）の概念とその重要性

避弾経始は、戦車に搭載された装甲を傾斜させることによって、対戦車砲弾の運動エネルギーを効果的に分散し、弾を跳ね返す仕組みです。この概念により、装甲の厚さや重量を変更せずとも、防御力を向上させることが可能となります。具体的には、装甲が垂直に設置されるよりも、傾斜を持つことで高い防御力を引き出すのです。

歴史的背景

この技術は1920年代にさかのぼります。アメリカのクリスティー戦車の開発に始まり、1930年代のソ連のBT戦車シリーズでは、装甲の傾斜設計が取り入れられました。これらの車両では、前面装甲を傾斜させることで薄い装甲でも十分な防御力を持つように工夫されていました。特に、ソ連のT-34戦車は傾斜装甲の代表例として知られ、後のパンター戦車など、他国の戦車設計にも影響を与えました。

さらに、戦闘実績から得られた教訓として、垂直装甲の戦車が直撃を受けた場合に貫通されやすいことが分かり、そのためにも敵に対して斜め的に構えることで、傾斜装甲と類似した効果を得ることができるとされました。実際、ドイツのティーガーIの教本には、戦車がどの角度で敵に対峙すべきかが詳しく説明されています。このように、戦場での経験が装甲設計に織り込まれ、傾斜装甲の重要性が見直される結果となりました。

現代の課題

避弾経始の効果は、装弾筒付き徹甲弾（APDS）などの徹甲弾に対しては有効とされていますが、現在主流となっている装弾筒付き翼安定徹甲弾（APFSDS）のような高速度で命中する弾に対しては、その効果が薄れることが指摘されています。APFSDSの弾頭と装甲が相互に擬似流体化することで、通常の跳ね返し効果が得にくくなるからです。これが理由で、戦後の戦車設計では、完全に傾斜装甲が採用されなくなる一因となりました。

たとえば、レオパルト2や90式[[戦車]]、ルクレールといった第三世代以降の戦車では、垂直な複合装甲が選ばれています。しかし、それでも装甲が完全に垂直であるわけではなく、傾斜の要素も組み込まれています。また、M1エイブラムスやチャレンジャー1/2も、砲塔に傾斜装甲が施されています。

傾斜装甲の特性

傾斜装甲の大きな利点の一つは、装甲に当たった砲弾が直角に偏向されることです。この特性は、宇宙空間におけるデブリ防護など、他の分野への応用も期待されているのですが、APFSDSのような長い弾頭に対しては、装甲が一定の厚さを持たない限り効果は限定的です。

特に、第二次世界大戦後もロシアの戦車は避弾経始を重視し続けましたが、実際にはそれが近代戦において有効性を減少させる要因ともなりました。中東戦争や湾岸戦争での実戦において、T-54やT-72などが新しいタイプの弾によって容易に撃破される事例が示されています。

一方で、傾斜装甲の取り組みは、軽装甲の戦車や装甲車においても有効であるため、完全に無視されることはありません。小口径、低初速の弾薬に対する防御では大きな力を発揮し、軽防備の車両においては重要な役割を果たしています。

まとめ

避弾経始は、戦車の防御技術の中でも特に重要な要素とされています。その歴史的発展と共に、装甲の傾斜設計は時代に応じて進化してきました。ただし、現代戦においては、傾斜装甲の効果の限界も見え始めており、今後の戦車設計には、より多面的なアプローチが求められることでしょう。

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