邑借

邑借（ゆうしゃく）について

邑借（ゆうしゃく）は、古代朝鮮の馬韓における重要な官名の一つであり、諸小国が互いに分立していた時代において、特に首長層の中でも特別な意味を持つ役職でした。馬韓は数多くの小国に分かれており、それぞれの国には独自の首長が存在しました。これらの首長たちは、上下関係において明確な序列を持ち、大きな首長は「臣智」と称され、その次の官職に位置するのが邑借でした。

邑借の役割と意味

馬韓では、各小国の首長が「臣智」や「邑借」といった称号を用いて自らの地位を示していました。古代中国の『三国志』、特に魏書の東夷伝には、馬韓の首長たちがこれらの称号を用いていることが記録されています。武田幸男の研究によれば、「臣智」という称号は、前漢時代の楽浪郡の設置に始まる冊封体制の中で、三韓の首長層が外臣として中国の皇帝に仕えることを示すものとされる。つまり、臣智は「臣たるもの」を意味し、中国皇帝の下にある立場を表しています。

邑借は、こうした首長たちが自身の位置付けを表すための重要な役職であり、馬韓の政治構造において不可欠な存在でした。これにより、邑借という地位にあった人々は、広い範囲の外交や政治的交渉に関与したと考えられています。

歴史的背景

前漢王朝による朝鮮半島の支配と楽浪郡の設置が、邑借という役職の成り立ちに大きな影響を与えました。前漢時代の紀元前1世紀には、楽浪郡との接触が本格的に始まり、この地域の締結交渉が進展しました。特に、紀元前1世紀中葉から後半にかけての慶尚道地域においては、数々の漢式遺物が確認されており、これらは邑借やそれに近い地位の人々が楽浪郡を通じて前漢王朝に朝貢した証拠とされています。

具体的には、慶尚南道昌原市茶戸里1号墳や慶尚北道慶州市朝陽洞38号墳、また、永川市の龍田里遺跡などからは、鉄製の武器や農具が多数出土しています。これらの遺物は、當時の支配層が前漢への朝貢によって入手したものであり、邑借の地位にあった人々が果敢に外交を行った結果としての成果とも言えるでしょう。

まとめ

邑借は馬韓の政治体系における重要な役職であり、名誉ある「臣智」との関係を通じて、古代朝鮮と中国との接点を持つことができた存在でした。歴史的には、楽浪郡との交渉を通じて、邑借に位置する首長層がどのように発展し、朝鮮半島の政治的ダイナミズムに寄与したのかを理解する手がかりとなります。

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