那古町

那古町（なごまち）は、明治期から昭和初期にかけて千葉県安房郡に存在した町です。現在の館山市の北部にあたり、古くからの歴史と独自の文化・産業を持つ地域でした。

地理

1926年（大正15年）頃の那古町は、東を国府村、西を船形町や八束村、南を北条町と隣接し、北は山並みを隔てて滝田村や八束村の一部と境を接していました。町域は、那古、小原、正木、亀ヶ原、高井の五つの区画に分かれていました。

歴史

古くからの集落

那古の地は、奈良時代の717年に僧・行基が開いたと伝えられる古刹、補陀洛山那古寺（那古観音）を中心に栄えました。那古寺は坂東三十三箇所の結願寺であり、古くから巡礼者が多く訪れ、中世には那古や船形の湊が巡礼者や物資の集散地として賑わいました。江戸時代には那古寺の門前町が形成され、那古村の西半分は那古寺の寺領でした。1703年の元禄地震で那古寺は大きな被害を受けましたが、出開帳や地元の寄付などにより再建が進められました。

町村制施行と改称

明治になり、1889年（明治22年）に町村制が施行されると、那古村、正木村、亀ヶ原村、小原村が合併し、平郡凪原村（なぎはらむら）として発足しました。那古村の知名度が高かったものの、村の勢力バランスから「凪原」という名が選ばれましたが、那古の集落が商業で賑わい全国的な知名度もあったことから、1893年（明治26年）に町制を施行し、「那古町」へと改称されました。

近現代の動き

1897年（明治30年）には、那古観音祭礼が始まり、山車行列が地域に定着しました。大正12年（1923年）に関東大震災を経て現在の形となりました。交通面では、1918年（大正7年）に国鉄房総西線（現内房線）が那古船形駅まで延伸されましたが、駅は町域外の船形町に位置しました。那古町は、1939年（昭和14年）に館山北条町、船形町と合併し、館山市の一部となり、自治体としての歴史を閉じました。

経済と房州うちわ

かつての那古町の産業は、那古地区が商業と漁業、他の地区が農業という特色を持っていました。農業では野菜が特産品とされ、特にサツマイモの早生品種が知られていました。また、江戸時代から続く房総の竹材出荷を背景に、副業として団扇骨（うちわぼね）の生産が盛んになっていました。これが、国の伝統的工芸品「房州うちわ」の源流となります。
房州うちわの発祥には複数の説がありますが、那古町がその発祥地の一つとされ、明治10年代には生産が始まったと考えられています。明治17年には那古の岩城惣五郎が東京から職人を招き団扇骨生産を始めたことも知られています。当初は団扇骨を生産し、東京で仕上げる形態でした。
大きな転機は1923年（大正12年）の関東大震災です。東京の団扇産業が打撃を受けたことで、房州地域でうちわを完成品まで一貫して生産する動きが加速しました。県の後押しもあり、町を挙げての生産が進み、「房州うちわ」のブランドが確立されました。うちわ作りは、那古などの漁師町で女性たちの重要な内職となりました。

交通と名所

町内には鉄道路線（現内房線）が通過していましたが駅はありませんでした。那古船形駅は隣の船形町にありました。主要な道路としては、房総街道（現国道127号旧道）が通っていました。代表的な名所は、歴史ある那古寺です。

まとめ

短い期間の自治体でしたが、那古町は古刹を中心とした文化、港町の賑わい、そして房州うちわ産業の発展という、館山地域の歴史において重要な役割を果たしました。その記憶は、現在の館山市に引き継がれています。

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