郷中

郷中（ごじゅう）

郷中とは、江戸時代の薩摩藩（現在の鹿児島県）において、武士階級の子弟を対象とした独自の教育制度です。会津藩の「什（じゅう）」と並び、武士道の精神や学問、武術を学ぶ場として重要な役割を果たしました。

概要

郷中の起源は、戦国時代の武将である島津義弘に遡るとされています。しかし、教育組織として本格的に機能し始めたのは、江戸時代中期以降のことです。当時の藩主である島津吉貴が、郷中の綱紀粛正と文武奨励を命じるなど、その運営には苦心した様子が伺えます。

郷中教育の特徴として、薬丸自顕流（やくまるじげんりゅう）という剣術流派が体育・思想教育に用いられたことが挙げられます。これは、単なる武術の鍛錬にとどまらず、精神修養や人格形成を重視するものでした。

安永2年（1773年）に藩校である造士館（ぞうしかん）と、武芸稽古場である演武館（えんぶかん）が創設されると、造士館・演武館以外の場所での武術教授や、下級武士による郷中での集団的活動は禁止されました。これは、藩が教育体制を整備し、一元化を図ったためと考えられます。

しかし、幕末になると、鎌田正純（かまたまさずみ）が郷中教育を活性化させました。彼は西田方郷中の士風を刷新し、藩意の下、文武を奨励し、剣術の稽古を出席制で行うなど、郷中の再興に尽力しました。

明治維新によって武士階級は消滅しましたが、郷中はその後も存続し、青少年の社会教育の場として機能しました。現在では、その数は減少していますが、鹿児島県内には、郷中の精神を受け継ぐ青少年育成団体がいくつか存在します。

教育内容

郷中教育の根幹をなしたのは、島津忠良（しまづただよし）が完成させた47首の「日新公いろは歌」と、新納忠元（にいろただもと）が作成した「二才咄格式定目（にせばなしかくしきじょうもく）」でした。

「日新公いろは歌」は、人生の心得や道徳を説いた歌であり、青少年が日常生活を送る上での指針となりました。「二才咄格式定目」は、郷中の若者（二才）が守るべき規則を定めたものであり、武士道精神や礼儀作法、仲間との協調などを重視する内容となっています。以下に主な内容を略訳します。

武道を嗜むこと
武士道の本義を実践すること
用事でグループ外の集まりに出ても長居しないこと
何事もグループ内でよく相談すること
仲間に対して無作法な言動をしないこと
嘘を言わないこと
体を鍛えること
質実剛健を旨とすること

これらの規則は、単なる形式的なものではなく、郷中の若者たちが日々の生活の中で実践し、体現していくことが求められました。

その他にも、

負けるな
弱い者いじめをするな
金銭欲・利欲を卑しむべきこと

といった教えも存在し、郷中の精神を形成する上で重要な役割を果たしました。

区分

郷中は、4-5町四方を単位とする「方限（ほうぎり）」を基盤とし、そこに居住する青少年を年齢によって以下の4つのグループに編成しました。

小稚児（こちご、6-10歳）
長稚児（おせちご、11-15歳）
二才（にせ、15-25歳）
長老（おせんし、妻帯した先輩）

それぞれのグループには「頭（かしら）」（稚児頭、二才頭など）が選ばれ、頭は郷中での生活を監督し、その責任を負いました。郷中のメンバーは「舎（しゃ）」（健児の舎）に集まり、武術や学問に励みました。

郷中は、青少年が地域社会の一員として成長していくための共同体としての機能も果たしていました。

郷中一覧

当初の数は18でしたが、幕末の頃には33に増加しています。

上方限
下方限

関連項目

什
造士館
演武館
薬丸自顕流
日新公いろは歌

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