新納忠元

新納忠元（にいろ ただもと）

新納忠元は、戦国時代から江戸時代初期にかけての武将で、島津氏の重臣として活躍しました。その生涯は、戦乱の世を生き抜いた武将としての側面と、文化人としての側面を併せ持ち、後世に多くの逸話を残しています。

生涯

大永6年（1526年）、新納祐久の子として生まれた忠元は、新納氏という島津氏の庶流の家系に属していました。13歳で父に連れられ島津忠良に謁見し、その才能を見出されて島津家に仕えることになります。その後、島津貴久、島津義久の二代にわたり、その忠義を尽くしました。

忠元の武勇は数々の戦で示されました。天文14年（1545年）には、入来院重朝との戦いで、敵将を一騎打ちで討ち取りました。永禄5年（1562年）の横川城攻め、永禄12年（1569年）の大口城攻めでは、負傷しながらも戦場を駆け回り、その勇猛さは「鬼神の如し」と評されたと言います。その後、薩摩国大口の地頭として領地を治めました。

元亀3年（1572年）の木崎原の戦い、天正9年（1581年）の水俣城攻め、天正12年（1584年）の沖田畷の戦いなど、数々の戦で活躍しました。特に、牛根城での籠城戦では、人質となって敵将を降伏させるという大胆な行動も行いました。豊臣秀吉の九州征伐では徹底抗戦を主張しましたが、最終的には主君の島津義弘に従い秀吉に降伏しました。朝鮮出兵の際には、薩摩の留守居を任されました。

関ヶ原の戦い後には、加藤清正が侵攻してきたと聞き、大口城に急遽帰城して国境を固めるなど、晩年までその武勇は衰えることがありませんでした。慶長15年（1610年）、85歳で大口城にて亡くなりました。

嫡男の忠堯は肥前攻めで戦死し、忠堯の嫡子も早世したため、家督は次男の忠増の子である忠清が継ぎました。現在、鹿児島県伊佐市には、忠元を偲ぶ「忠元公園」があります。

逸話

忠元は、小柄ながらも豪胆な人物で、島津忠良から「島津氏に無くてはならない四人の一人」とまで評価されました。武功を数える際、最初に名前が挙がる人物であったことから「大指武蔵（親指武蔵）」と呼ばれたそうです。また、「鬼武蔵」という異名で恐れられましたが、一方で和歌や連歌、漢詩に通じ、茶の湯も嗜む教養人でもありました。

戸次川の戦いで討死した長宗我部信親の遺骸を引き取りに来た谷忠澄に対し、信親の死を悼み、土佐岡豊城まで丁重に送り届けたという逸話も残っています。また、町田久倍や長寿院盛淳らと共に『二才咄格式定目』を制定し、郷中教育の原点となる規律を定めました。忠元の事績を記した『新納忠元勲功記』も存在します。

忠元の死後、殉死禁止令が出されていたにも関わらず2名が殉死し、殉死を許されなかった者は指を切るという行動に出た人が50余人にも及んだという逸話は、忠元がいかに人々から慕われていたかを物語っています。

鹿児島県伊佐市大口には、忠元が植えたと伝えられるモミの木が残っていましたが、残念ながら2019年に伐採されました。

和歌・連歌

忠元は、戦陣の中でも『古今[[和歌集]]』を読んでいたと伝えられるほどの文化人でした。

水俣城攻略の際、忠元が「秋風に 水俣落つる木ノ葉哉」と詠むと、敵将の犬童頼安が「寄せては沈む 月の浦波」と返歌したという逸話は有名です。豊臣秀吉に降伏した際には、その場で和歌を詠み、周囲を感心させました。細川幽斎が忠元の様子を「鼻の下にて鈴虫ぞなく」と詠むと、忠元は「上髭を ちんちろりんとひねりあげ」と返歌したそうです。

朝鮮出兵に出陣する島津義弘・久保父子への餞別の句や、庄内の乱で戦死した平田三五郎を悼む歌など、数多くの和歌や連歌の逸話が残されています。

関ヶ原の戦いの後、加藤清正が薩摩への侵攻を企図した際、忠元は数え唄を作り兵士たちの士気を高めたと伝えられています。

辞世の句は「さぞな春 つれなき老と おもうらん ことしも花の あとに残れば」です。

関連作品

小説：山元泰生『新納忠元』（学陽書房人物文庫・2011年1月）

出典

やまとうた~千人万首　新納忠元

新納忠元は、武勇に優れた武将であると同時に、和歌や連歌を愛した教養人でもありました。その生涯は、戦国時代の武将の生き様を象徴するものであり、現代においても多くの人々に影響を与え続けています。

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