鄭弘

鄭弘（てい こう、生没年不詳）は、前漢時代に活躍した人物で、字は稚卿と称しました。泰山郡剛県（現在の山東省泰安市寧陽県一帯）の出身であり、最終的には御史大夫という要職にまで昇りつめました。

略歴

鄭弘は、兄である鄭昌（字は次卿）と共に、幼い頃から学問に励み、特に経書や法律に精通していました。その学識と才能を生かし、鄭昌は太原太守や涿郡太守を歴任し、鄭弘も南陽太守として地方政治に貢献しました。兄弟はそれぞれ、その優れた治績によって名を上げ、後世に語り継がれるほどでした。

しかし、兄弟の政治手法には違いがありました。鄭昌は刑罰を厳格に適用することが多かったのに対し、鄭弘は公平さを重視し、その公正な裁きは鄭昌を凌ぐと評されました。

鄭弘は淮陽国相としても手腕を発揮し、その優れた行政能力が認められ、初元3年（紀元前46年）には中央政府から右扶風に選ばれました。首都においても、その評判は高く、人々から称賛されました。

永光2年（紀元前42年）には、韋玄成が御史大夫から丞相に昇進したことに伴い、鄭弘が後任の御史大夫に任命されました。これは、鄭弘にとってキャリアの頂点とも言える出来事でした。

しかし、その後の政治的判断が、彼の運命を大きく左右することになります。当時、京房という人物が、新たな官吏の評定法を提案しました。鄭弘は最初、この提案に反対していましたが、最終的には賛成に転じました。さらに京房は、中書令の石顕や丞相の韋玄成を退けるように進言し、韋玄成の後任として鄭弘を推薦しました。

ところが、京房が失脚し罪に問われると、事態は急変します。京房が以前上奏した内容を鄭弘に話していたことが問題視され、鄭弘自身もその責任を問われることになったのです。その結果、建昭2年（紀元前37年）に鄭弘は罷免され、庶人に身を落とすことになりました。

『漢書』百官公卿表下には、鄭弘が自殺したと記されていますが、鄭弘伝や京房伝には、罷免されたのみであると記されています。この点については、史料によって記述が異なっています。

参考文献

* 班固著『漢書』巻19下百官公卿表下、巻66鄭弘伝、巻75京房伝

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