班固

班固：後漢を彩った歴史家と文学者

班固（はんこ、32年 - 92年）は、中国後漢初期を代表する歴史家にして文学者です。字は孟堅。歴史家として名高い班彪を父に持ち、班超、班昭兄妹の兄、班勇の伯父にあたる名門の出身でした。彼の名を不朽のものとしたのは、何と言っても『漢書』の編纂です。中国最古の断代史である『漢書』は、前漢の歴史を詳細に記述した歴史書であり、後世の歴史編纂に多大な影響を与えました。しかし、班固の才能は歴史書編纂のみに留まりません。文学者としても優れた才能を発揮し、数々の名文を残しています。

華麗なる経歴と悲劇的な最期

班固は、幼い頃から文章作成の才能に恵まれ、その才能は父・班彪譲りのものだったと言われています。班彪は『史記』の『後伝』を編纂していた歴史家で、班固はその遺志を継ぎ、歴史書の編纂に励みました。しかし、歴史書編纂の過程で「国史を改作しようとしている」という嫌疑をかけられ、投獄されるという苦難を経験します。弟の班超の尽力によって釈放され、蘭台令史や典校秘書といった要職に就きます。その後、『世祖本紀』（後の『東観漢記』の一部）の共同編纂にも携わっています。

『漢書』の編纂には20年もの歳月が費やされました。完成間近には、皇帝章帝からの信頼も厚く、経典に関する論争の記録である『白虎通義』の編纂も任されています。章帝は文学を愛好しており、班固の才能を高く評価していたことがうかがえます。

一方、私生活では母の喪のため官を辞職するなど、個人的な悲しみも経験しています。永元元年（89年）には、竇憲に従軍し匈奴との戦いにも参加。その戦いの勝利を記念して記した「封燕然山銘」は、現在でもその存在が確認されており、『文選』にも収められています。2017年の調査で、この銘がハンガイ山脈に現存することが確認されたことは、班固の業績の偉大さを改めて示すものと言えるでしょう。

しかし、班固の生涯は、栄光とともに悲劇的な幕切れを迎えます。竇憲の失脚に伴い、連座して投獄され獄死という運命を辿りました。未完だった『漢書』は、妹の班昭によって完成されました。

多彩な文学作品

班固は歴史家としての業績だけでなく、数々の優れた文学作品も残しました。代表作として挙げられるのは、『白虎通義』と「両都賦」です。『白虎通義』は、白虎観で行われた経典に関する論争の記録であり、当時の学問状況を知る上で貴重な資料です。「両都賦」は、前漢の長安と後漢の洛陽の二つの首都を比較し、洛陽を高く評価した作品で、『文選』の冒頭に掲載されるほど高く評価されています。『文選』には、他にも「幽通賦」「答賓戯」など、彼の作品が複数収録されています。「詠史」詩は、淳于意を題材とした五言詩で、作者の明らかな五言詩としては最古のものであるとされています。

歴史に刻まれた足跡

班固は、歴史家として、そして文学者として、後漢初期に大きな足跡を残しました。波乱に満ちた生涯でしたが、その功績は『漢書』をはじめとする多くの作品を通して、現代まで語り継がれています。彼の作品は、後世の歴史研究や文学の発展に多大な影響を与え、中国文化史において重要な役割を果たしたと言えるでしょう。彼の業績は、単なる歴史家の仕事を超えて、文化遺産として、後世に語り継がれるべきでしょう。

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