酒井啓子

酒井啓子氏は、1959年2月生まれの日本の国際政治学者です。長年にわたり中東、特にイラク政治の研究に深く携わってこられました。現在は千葉大学国際高等研究基幹特任教授、および同大学グローバル関係融合研究センター長を務めています。

神奈川県小田原市に生まれ、東京都立青山高等学校を卒業後、東京大学教養学部教養学科国際関係論分科にて国際関係論を学び、1982年3月に同大学を卒業されました。同年4月にはアジア経済研究所の研究員となり、研究者としての道を歩み始めます。アジア経済研究所に在籍中には、イギリスのダラム大学中東イスラムセンターにて修士課程を修了されています。また、1986年5月からは在イラク日本国大使館専門調査員として現地での経験を積まれました。

1989年にアジア経済研究所に戻り、中東総合研究プロジェクトチームの研究員となります。1995年1月にはダーラム大学からM.A.（社会科学）の学位を取得。同年4月からはカイロ・アメリカン大学の客員研究員としてエジプトでの研究活動も行われました。アジア経済研究所ではその後も研究企画部地域研究部新領域センターなどで研究を続けられました。

2005年10月、東京外国語大学大学院地域文化研究科の教授に就任し、中東イスラーム研究教育プロジェクトに携わります。2009年には大学院重点化に伴い、総合国際学研究院（先端研究部門）の教授に配置換えとなりました。2012年10月からは千葉大学法政経学部の教授に転じ、2015年4月から2017年3月までの2年間、同法政経学部の学部長を務められました。2017年4月からは、千葉大学グローバル関係融合研究センター長を兼任し、2024年4月からは国際高等研究基幹特任教授として、現在も活発な研究・教育活動を続けていらっしゃいます。2019年3月には、京都大学より博士（地域研究）の学位を取得されました。

酒井氏は、日本国内における数少ないイラク専門家の一人として知られています。特に2003年のイラク戦争以降は、その専門知識が求められる機会が増え、論壇やメディアでの露出が急速に増加しました。新聞や雑誌への寄稿に加え、社民党の広報誌『社会民主』などにも執筆されています。また、テレビ番組などを通じて、一般向けに中東情勢やイラクの現状について解説することも少なくありません。東京大学在学中には、エドワード・サイードの代表作『オリエンタリズム』のゼミ用テクストの共訳を手掛けた経験もお持ちです。

学会活動においては、日本の国際政治学を牽引する存在の一人であり、日本国際政治学会では副理事長を経て、2012年から2014年まで第21代理事長を務められました。また、日本学術会議の会員（第20期）を務めたほか、朝日新聞の書評委員や東京財団仮想制度研究所のフェローなど、多方面で活動されています。

酒井氏の主な著作には、『イラクとアメリカ』（岩波書店、2002年）、『フセイン・イラク政権の支配構造』（岩波書店、2003年）、『〈中東〉の考え方』（講談社、2010年）、『9.11後の現代史』（講談社、2018年）、『「春」はどこにいった』（みすず書房、2022年）など、イラクや中東の政治、社会情勢を論じた単著が多数あります。これらの著作の一部や、編著・共編著は高く評価されており、2003年11月には著書『イラクとアメリカ』で第15回アジア太平洋賞大賞を受賞されています。また、長年のイラク地域研究および中東現代政治研究の功績に対して、2009年7月に大同生命地域研究奨励賞を受賞。さらに、2020年から2021年にかけて刊行されたシリーズ「グローバル関係学」（岩波書店、全7巻）の編集代表を務め、2022年には同シリーズによって第12回地域研究コンソーシアム賞・研究企画賞を受賞されています。これらの活動を通じて、酒井啓子氏は日本の国際政治学、特に中東・イラク研究分野において、教育、研究、社会貢献と多岐にわたる重要な役割を果たしていらっしゃいます。

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