酔拳

酔拳（すいけん）とは

酔拳は、中国武術の一種で、まるで酒に酔ったかのような独特な動作が特徴的な拳法の総称です。しかし、実際には「酔拳」という特定の流派は存在せず、「酔八仙拳」「東海酔拳」など、中国各地に様々な酔拳と称される拳法が存在します。

中国武術の分類では、地面を転げ回るように戦う「地功拳」や、動物の動きを模倣する「象形拳」に分類されます。足場の悪い場所での戦いや、相手を油断させる戦法を得意とします。

現在では、武術の大会における表演としても知られていますが、映画の影響で「酔えば酔うほど強くなる」というイメージが先行しています。しかし、実際に酒を飲んで戦うのではなく、酔っ払ったような動きで相手の攻撃をかわしたり、隙をついて攻撃する技術が中心です。

伝説では、水滸伝の登場人物である花和尚魯智深などが酔拳の始祖とされることもあります。

酔八仙拳について

酔八仙拳は、中国の有名な八人の仙人（八仙）が酒に酔った姿を模した拳法です。伝説によると、蘇燦と范大杯という二人の武術家が各地の酔拳を研究し、少林拳や地功拳などの技術を組み合わせて創始したとされています。

酔八仙拳が表舞台に登場したのは、「上海精武体育会」の教師であった陳維賢が伝えたことがきっかけで、その後、民間に広まりました。酔酒逍遥拳と過海八仙拳に、南北少林拳や象形地功拳を組み合わせたものが、酔酒八仙拳であるとされています。別名として、酔酒八仙神拳とも呼ばれます。

酔拳の伝承者

酔拳を伝承した武術家として、以下の人物が知られています。

李元智：秘宗拳で知られる武術家で、傳万祥から酔八仙拳を学んだとされています。
黄漢勛：七星螳螂拳で知られる武術家で、羅光玉から酔羅漢拳を学んだとされています。酔羅漢拳は螳螂拳に伝わる地功拳の套路（型）です。
龍飛雲：日本の武術家で、台湾に渡り北派拳法を修行し、酔八仙拳を日本に伝承した最初の人物です。

酔拳に関する様々な説

酔拳は、中国北部の雪深い地域で生まれたとする説があります。足場の悪い場所で寝転んで戦う必要性から生まれたと考えられています。
中国では、酔拳は男性のみの拳法という見方が強く、女性の武術家が酔拳の演舞を求められることを拒否するケースもあります。
酔拳の代表的な手型である杯手は、喉のツボを掴んで破壊するためのものであり、実戦時には鳳眼拳に変化することもあります。他にも3本指を広げた型や、月牙叉手といった種類があります。
酔八仙拳は、八仙一人につき一技で構成されています。それぞれの仙人の特徴を表した8つの漢詩文があり、それに基づいた技が構成されています。
酔拳には、西遊記の孫悟空をモデルとした猿拳系の酔猴拳もあります。
水滸伝には酔拳の戦闘シーンがありますが、実際には泥酔した登場人物が徒手で戦っている描写であり、拳法としての酔拳を使っているわけではありません。しかし、水滸伝の描写がヒントとなって、酔拳の技法が作られることもあります。
地功拳・酔拳は、相手に圧し掛かり敵足を刈り、全体重を掛けて倒れこみ肘打ちを極める「倒極法」を技の根本とする説もあります。
中国と国境を接するロシアの一部地域にも、酔拳に似た格闘技が存在すると言われています。
酔拳の酔う様は、古代中国のシャーマニズムを継承したもので、トランス状態を表現しているという説もあります。護身術としての側面と、娯楽や郷土芸能としての側面を持つとも考えられています。
水滸伝に登場する花和尚魯智深や行者武松などの人気と、酔拳の大衆的な人気は無関係ではないという見方もあります。

酔拳が登場する主な作品

酔拳は、映画や漫画、ゲームなど様々なフィクション作品に登場しており、その独特な動きと「酔えば酔うほど強くなる」というイメージは、多くの人に親しまれています。

ドランクモンキー酔拳：ジャッキー・チェン主演の香港映画。酔八仙拳を修得する主人公が活躍する物語で、酔拳を一般に広めるきっかけとなりました。
南北酔拳：ドランクモンキー酔拳の続編的な作品で、ユエン・シャオティエン演じる蘇化子が養子に酔拳を教える物語です。
少林寺：ジェット・リー主演の香港映画。劇中で少林拳の酔拳が使われています。
キング・オブ・カンフー：チャウ・シンチー主演の香港映画。蘇乞兒の物語ですが、酔拳ではなく睡拳が登場します。
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ/天地雷鳴：ドニー・イェン主演の香港映画。蘇乞兒がどん底から這い上がる物語で、黄飛鴻と共闘します。
ラスト・ヒーロー・イン・チャイナ烈火風雲：ジェット・リー主演の香港映画。黄飛鴻のパロディとして酔拳が登場します。
酔拳2：ドランクモンキー酔拳の続編ですが、物語のつながりはほとんどなく、殺陣の型が前作のものが使われています。
酔拳3：アンディ・ラウ主演の香港映画。
酔猴拳VS蛇拳：
酔拳レジェンド・オブ・カンフー：チウ・マンチェク主演の中国映画。蘇乞兒を主人公とした作品です。
ドラゴン・キングダム：ジャッキー・チェンが酔拳の達人役を演じた作品です。
マッハ!弐、チョコレート・ソルジャー
Marvel アイアン・フィスト：Netflixオリジナルドラマ。ヤミノテの守人「ジョウ・チェン」が酔拳を使用します。
戦国獅子伝：辻真先原作・横山光輝作画の漫画。主人公の好敵手朱豹が酔拳の使い手として登場します。
五星戦隊ダイレンジャー：スーパー戦隊シリーズ。キリンレンジャーの使う麒麟拳は酔拳が元になっています。
* アフリカン・カンフー・ナチス

ジャッキー・チェンの『ドランクモンキー酔拳』によって酔拳は広く一般に知られるようになり、フィクションの世界でもよく取り扱われるようになりました。多くのフィクション作品では、シラフの状態では技が今ひとつキレないが、酒を飲むと本来の強さに目覚めるという設定が用いられています。また、作品によっては『ドランクモンキー酔拳』で使われた楽曲「将軍令」が使用されることもあります。

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