黄飛鴻

黄飛鴻（こう ひこう）

黄飛鴻（ウォン・フェイホン）は、清朝末期から民国初期にかけて活躍した、中国武術界を代表する人物です。彼は武術家であると同時に、医師としても名を馳せました。

生涯

黄飛鴻は、1847年に広東省南海県（現在の仏山市）で生まれました。幼名は黄飛熊といい、父は武術家の黄麒英（ウォン・ケイイン）です。彼は幼い頃から父に洪家拳を学び、その才能を早くから開花させました。

13歳になる頃には、道場主に匹敵するほどの腕前になり、「少年英雄」と称えられました。父の死後、彼は父が経営していた漢方薬局兼拳法道場「寶芝林」を継ぎました。社会が不安定な時代にあって、農民たちに武術を教え、自警団を率いて地域の治安維持に貢献しました。また、官軍や警察にも洪家拳を教授し、治安維持に尽力しました。

武術

黄飛鴻は、洪家拳を基礎とし、数多くの武術を習得しました。中でも有名なのが「無影脚」です。これは、そのあまりの速さで足の影さえ見えないほどの連続足技から、そう呼ばれるようになりました。この技は、もともと北派少林拳の燕青拳の技でしたが、黄飛鴻はこれを自らの洪家拳に取り込み、さらに磨き上げました。彼の足技は、試合記録にもその脅威的な速度と破壊力が記されており、「彼以前も以降もない」と評されるほどでした。

他にも、虎拳（伏虎拳、工字伏虎拳）、鉄線拳、十毒手、梅花拳、梅花十字拳、夜虎出林、二龍争珠、三箭拳、五郎八卦棍、胡蝶子母刀、飛鉈など、多岐にわたる武術を伝えています。特に「虎形拳」を得意とし、そのあまりの多用ぶりから、武術仲間からは「虎痴」というあだ名で呼ばれていたそうです。
また、獅子舞の名手としても知られ、「獅子王」という称号も持っていました。

映画の世界

黄飛鴻は、その生涯と武勇が、没後間もなくから小説や新聞で語られるようになり、やがて映画の世界でも人気を博しました。1949年に制作された『黄飛鴻傳上集・鞭風滅燭』を皮切りに、数多くの黄飛鴻を題材とした映画が製作されました。その数は、香港だけでも84本にのぼり、これは同一題材で製作された映画の数として世界最多であり、ギネスブックにも掲載されています。日本では、ジャッキー・チェン主演の『ドランクモンキー 酔拳』や、ジェット・リー主演の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』シリーズなどがよく知られています。

黄飛鴻と香港映画

黄飛鴻の弟子の一人である林世榮の孫弟子にあたる劉家良（ラウ・カーリョン）は、洪家拳の使い手としてだけでなく、香港映画界でアクション指導や出演を通じて、カンフー映画の隆盛を支えました。また、黄飛鴻の小説を執筆した朱愚斎も、林正榮の弟子の武術家でした。

その他

日本の作家である東城太郎も、黄飛鴻を主人公とした小説を執筆しており、また、梶研吾の小説『バトル・ホームズ』シリーズにも黄飛鴻が登場します。

台湾のゲームメーカーIGSが制作した対戦格闘ゲーム『形意拳』も黄飛鴻をモチーフとしています。

黄飛鴻は、その卓越した武術と人徳によって、時代を超えて人々に愛され続ける英雄です。

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