酪酸

酪酸について

酪酸（らくさん、英: butyric acid）は、分子式 C4H8O2 の直鎖カルボン酸であり、IUPAC名はブタン酸（butanoic acid）またはn-ブタン酸（n-butyric acid）です。構造異性体にはイソ酪酸が存在します。この化合物は、独特の不快な臭いを持ち、哺乳類は非常に微量な濃度でもその匂いを感知することができます。特に犬では 10 ppb、ヒトでは 10 ppmに達します。

性質

酪酸は常温において弱酸として働き、pKa 値は 4.82 です。また、同様の性質を持つ酢酸は pKa 4.76 という値を持っており、これにより両者は似ている部分があります。酪酸の密度は 0.96 g/cm³、分子量は 88.11 です。常圧下では融点が -7.9 ℃、沸点が 164 ℃の無色で油状の液体として存在します。

カルボキシ基を持つため、酪酸は水に溶けやすいですが、食塩水には溶けにくいのが特徴です。したがって、酪酸水溶液に大量の食塩を加えることで、酪酸を分離することが可能です。また、酪酸は揮発性が低いため、一度建物の内壁などに染み込むと、その臭いが残ることが多く、リフォームを施してもなかなか消えません。

存在

酪酸という名前はラテン語で「バター」を意味する「butyrum」に由来し、これにはバターから得られることが関係しています。酪酸は自然界に広く存在し、特に脂肪酸の分解過程で生成されます。また、人間や動物の体外に分泌される皮脂の中にも含まれており、例えば蒸れた足から発せられる悪臭の一因ともなっています。乳汁を原材料としたバターやチーズにも含まれ、植物にも見られる成分であり、特に銀杏では異臭の原因となっています。

さらに、酪酸は微生物によっても生成されます。哺乳類の大腸や反芻胃内に生息する細菌は、食物の中のセルロースやヘミセルロースを嫌気的に分解し、酪酸をはじめとする短鎖脂肪酸を作り出します。これらは草食性動物にとって重要なエネルギー源です。消化管から体内に吸収された酪酸は、β酸化を経てアセチルCoAに変換され、クエン酸回路によりエネルギー源として利用されます。特に大腸で生成された酪酸は、結腸細胞において優先的にエネルギー源として利用されており、腸管の健康を支えています。酪酸は腸管増殖因子としての役割を果たし、抗炎症作用や傷害腸管の修復にも寄与します。

合成

工業的には、酪酸はブタノールやブチルアルデヒドの酸化によって合成されます。また、酪酸エチルや酪酸イソアミルなどのエステルは、パイナップルの香気成分として知られ、香料の一部として利用されます。

危険性

酪酸は皮膚や粘膜に対して腐食性を持ち、水生生物にも害を及ぼす可能性があります。また、ICSCでは環境中に無処理で放出することを禁止しており、消防法における第4類危険物の第3石油類に分類されています。

関連項目

• - トリブチリン: グリセロールと酪酸のエステル結合によって形成される脂肪で、バターに含まれています。
• - ブタン: 酪酸の炭素骨格として知られ、カルボキシ基を持たないため、融点や沸点は酪酸よりも低くなります。
• - コハク酸: 別名ブタン二酸であり、酪酸の炭素側の末端がカルボキシ基になった構造を持っています。

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