醍醐

醍醐（だいご）とは

醍醐（だいご）は、古代インド発祥の仏教用語で、牛乳を加工して作られたとされる、非常に濃厚で甘美な液汁のことです。仏教の経典『大般涅槃経』では、乳から始まり、酪、生酥、熟酥を経て、最終的に醍醐に至る五段階の精製過程を、教えの深まりに例える「五味相生の譬（ごみそうしょうのたとえ）」として説かれています。この中で醍醐は、最も美味なもの、最上の教えの象徴として扱われ、そこから「醍醐味」という言葉が生まれました。この言葉は、仏教の枠を超え、広く一般的に「物事の最も良いところ」や「深い味わい」を指す言葉として使われるようになりました。

醍醐の正体

醍醐の具体的な製法は現代には伝わっておらず、その実態は謎に包まれています。様々な説があり、バターオイルのようなもの、現代で言うカルピスや飲むヨーグルトのようなもの、あるいは蘇（そ）を熟成させたものなど、様々な解釈がなされています。

バターオイル説: 濃厚な乳製品であることから、バターオイルのようなものだったのではないかという説です。
乳酸飲料説: 現代の乳酸菌飲料のような、発酵させた乳製品とする説です。
蘇熟成説: 蘇（乳を煮詰めて作った乳製品）をさらに熟成させたものという説です。延喜式にも蘇の製造法が規定されていることから、この説は有力視されています。

これらの説は、当時の文献や製法を参考にして推測されたものですが、いずれも確証はありません。食品研究家らが古代の製法を基に再現を試みているものの、決定的なものは見つかっていないのが現状です。

延喜式と醍醐

延喜式には、蘇（そ）の製造方法が詳しく規定されており、これが醍醐の前段階の乳製品であることから、醍醐の製造法を推測する上で重要な手がかりとなっています。しかし、延喜式における蘇と、仏教経典における酥（そ）は異なるものとする説もあり、それぞれの段階をどう解釈するかによって、醍醐の正体に関する見解も分かれています。

カルピスと醍醐

意外なところで、乳酸菌飲料「カルピス」の命名にも醍醐が関わっています。カルピスの開発当初、カルシウムの「カル」と醍醐の梵語名「サルピルマンダ」の「ピル」を組み合わせた「カルピル」という名前が候補に挙がりましたが、語感が良くないという理由で見送られました。最終的には、五味の次位である熟酥（じゅくそ）の梵語名「サルピス」の「ピス」と組み合わせ、「カルピス」と名付けられました。このエピソードからも、醍醐が持つ特別な響きが伺えます。

近年の研究と再現の試み

2024年には、NHKのテレビ番組「チコちゃんに叱られる!」で、醍醐の味を再現する企画が行われました。これにより、醍醐という言葉や、その意味が改めて注目を集めることになりました。また、食品研究者たちも、文献を基に再現を試みていますが、その正体は未だ謎のままです。

関連項目

ギー: インドで伝統的に作られている精製バターの一種で、醍醐と関連があるという説もあります。
醍醐天皇: 醍醐という名を持つ天皇で、醍醐の言葉が持つイメージが、天皇の名にも用いられたことが伺えます。
乳糖: 牛乳に含まれる糖の一種で、乳製品である醍醐の製造にも関わっています。

まとめ

醍醐は、古代の製法が失われた、幻の乳製品です。その実態は不明な点が多いですが、「醍醐味」という言葉を通して、その名前は現代にも生き続けています。様々な説があり、研究も進められていますが、未だ解明されていない部分が多く、今後の研究が待たれます。

もう一度検索