醒睡笑

『醒睡笑』：近世日本の笑いの宝庫

『醒睡笑（せいすいしょう）』は、安楽庵策伝（あんらくあん さくでん）によって1623年（元和9年）に編まれた笑話集です。京都の僧侶であり、茶人としても知られた策伝が、幼少期から耳にした面白い話を集め、一冊の本としてまとめ上げたものです。全8巻8冊、1039話もの多様な話が収録されており、当時の庶民の生活や文化、感性を垣間見ることができる貴重な資料となっています。

書名『醒睡笑』の由来

書名には「眠りから覚めて笑う」という意味が込められています。収録された話が、読者に驚きや喜びを与え、眠っていた心を目覚めさせるような、そんな力を持っていることを示唆していると言えるでしょう。

収集と編纂

策伝自身は、自序の中で、幼い頃から面白い話を収集し、古くなった紙片などに書き留めていたことを記しています。収録された話の中には、『無名抄』や『宇治拾遺物語』といった古典作品に由来するものが含まれているほか、『戯言養気集』や『昨日は今日の物語』といった同時代の作品と共通する話も見られます。しかし、策伝がそれらの作品を直接引用したのか、それとも当時の巷間で広く知られていた話を採用したのかは定かではありません。

『醒睡笑』が編まれた背景には、元和元年（1615年）頃、策伝が当時の有力者である板倉重宗（いたくら しげむね）の前で話した話が面白く、著書としてまとめることを勧められたという逸話があります。完成した『醒睡笑』は、1628年（寛永5年）に重宗に献呈され、その経緯は重宗自身の奥書にも記されています。

落語への影響

『醒睡笑』は、近世日本の庶民文化に大きな影響を与えました。特に、後の咄本（はなしぼん）や落語に多大な影響を与え、多くの落語の原型となった話も含まれています。例えば、初代露の五郎兵衛の『軽口露がはなし』（1691年）に収録された88話中、28話が『醒睡笑』に由来すると言われています。関根黙庵の『江戸の落語』（1905年）以降、策伝は落語の祖として位置づけられるようになり、現代でも『醒睡笑』に起源を持つ落語が数多く演じられています。

歴史資料としての価値

『醒睡笑』は、単なる笑話集としてだけでなく、歴史資料としても高い価値を持っています。例えば、小辺路・大辺路の名称の由来や、瀬田の唐橋に関する格言「急がば回れ」の起源など、現代においても歴史的考察に役立つ情報が含まれています。収録された話は、当時の社会情勢や風俗、人々の考え方などを反映しており、近世日本の社会を知る上で貴重な手がかりとなっています。

構成と内容

『醒睡笑』は8巻から構成されており、それぞれの巻には様々なジャンルの話が収録されています。巻によってはその主題が明確に示されている場合もありますが、多くの場合は多様な話が混在しています。例えば、巻一には「物の由来」や「落書」、「ふわとのる」といったテーマの話が、巻二には「名付親方」や「貴人の行跡」、「吝太郎」といったテーマの話が収録されています。他の巻も同様で、当時の社会の様々な側面を映し出す様々な笑話で構成されています。

現代への継承

『醒睡笑』は、単に過去の遺物としてではなく、現代においても多くの読者を引きつけています。その軽妙な語り口調、時代を超えて共感できるユーモラスなエピソードの数々は、今もなお、多くの人々に楽しさと教訓を与え続けています。近世日本の文化や社会を理解する上で貴重な資料であることはもちろん、現代の私たちにも、笑いと教訓を与えてくれる不朽の名作と言えるでしょう。

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